第340話・プロパガンダのお飾りは消えな
「王族方の避難を急げ!! 敵は首都上空へ既に侵入している!!」
「偽装していた対空砲を今すぐ引っ張り出せ!! 敵は間も無く王城上空に到達する! 郊外のワイバーン航空部隊は間に合わない!!」
非常に騒がしくなった中庭で、俺たちは周囲の近衛騎士たちを見ていた。
さすがに練度が高いのか、動きに全く無駄が無い。
王城内にはいくつもの兵器が隠されていると噂には聞いていたが、レンガだと思われた壁や塔の中から、次々に40ミリ対空機関砲が姿を現す。
「ここにいたか、みんな」
やってきたのは、王国近衛総連隊長のグラン・ポーツマス大佐。
服以外すっかり馴染みの顔だが、その両隣には女騎士が2人いた。
「あら、ポーツマス大佐……この子たちと知り合いでしたのね」
俺たちを政治プロパガンダのお飾り呼ばわりした、近衛大隊長のベリナとカルミナだ。
2人共、紫と紺色の鎧をガッチリ着込んで戦闘態勢だ。
相変わらずこちらを見る目は、冷ややかというか見下したそれだが……。
「どうもマスター、忙しそうですね」
俺の言葉に、マスターも会釈する。
「まぁね、こうも早く天界が反撃に出るとは思わなかった……連中、大気圏外からいきなり現れたよ」
「大気圏外……新種の飛行艇か航空兵器の類いですか?」
ユリアの質問に、マスターは首を横に振る。
「いいや、どう言ったら良いかな……僕たちの着てる鎧を100年掛けてアップグレードしたような様相の人型物体だ。ジェットエンジン付きの武装スーツとでも言おう」
なるほど……それが天界兵士の持つ装備か。
予想とは裏腹に、天使っぽい外見では無さそうだ。
「ずいぶん落ち着いてるじゃねえか竜王級さんよぉ、もう少しパニックになった方が、俺たちも守ってやる気が起きるかもしれねえぜ?」
ベリナが笑みを浮かべながら、あからさまに敵意を向けてくる。
つまり要約すると、邪魔だからどっかに行けということだろう。
「ご心配なく、会長は貴女のような下賎な腰巾着に守られるほどヤワではありませんので」
冷淡な目つきのユリアが、ベリナを睨み返した。
「はっ! 言うじゃねえか。信頼か愛かは知らねえが、プロパガンダのお飾り供はサッサと逃げるんだな。お前らにゃ都民への宣伝以外期待してねえからよ」
今にも戦闘が発生しそうな空気。
俺はユリアの前に出て、ベリナに微笑み返す。
「そりゃ失礼したな、けど……ウチの生徒会役員たちをあまり舐めない方がいい。むしろ俺は、君たちの迅速な避難をオススメするよ」
「んだと……っ、ミリシア近衛大隊長たるこの俺にどの口が。子供如きが戦場で騎士に逆らうんじゃねえよ!」
俺たちの実力を知っているマスターは、気まずそうにベリナを見下ろしている。
ただ、どう言おうか悩んでいるのだろう。
なら––––
「マスター、敵はどの方角から来ていますか?」
「あぁ……西の方だ、マッハに近い速度で突っ込んできてる。数は60以上」
「わかりました、防空網は多分破られます……手動照準の単装機関砲でマッハの人型は落とせません。唯一対抗しえるのは––––」
背後を振り返り、既に数多の戦いを経験した恋人たちを見る。
「こいつらだけです」
俺の提案に、しばらく悩み声を出したマスターがゆっくり頷く。
「……やむを得んか、君の意見を採用しよう。アルスくん」
マスターの回答に、それまで黙っていたカルミナが声を上げた。
「危険過ぎます連隊長! こんな経験不足の子供を信じるなんて……我々だけで十分王族をお守りできます!」
抗議の声を上げるカルミナに、ユリアは冷笑を浮かべる。
「なら貴女––––『飛翔魔法』で今すぐ飛んで行ったらどうですか?」
アッサリと宙に浮き上がって見せるユリア。
「ッ……!!」
彼女の行動と言葉に、カルミナはまるで苦虫を噛み潰したような顔になる。
それはベリナも同様だった。
「あらあら……これは失礼しました、できないことをしろと言うほどわたしも無茶ではありません。そうだ、せめて対空砲の装弾をお手伝いするのはどうでしょう? その腰に下げてらっしゃる剣を振るよりかは大分お役に立てますよ」
これ以上ないくらいに笑顔のユリアに、2人の近衛大隊長は完全に押し黙る。
当然だ、戦えないヤツは下がれと最初に言ったのは向こうなのだから。
「敵が来たぞッ!!」
誰かの声と同時、見上げた夜空に無数の光点が映った。
対空砲が曳航弾を撃ち上げ始めるも、当たる気配は皆無だ。
俺は踵を返した。
「じゃ、あとは頼むな3人共」
ミライとアリサの肩をポンと叩いた俺に、ベリナが叫んだ。
「おい竜王級! お前は戦わねえのかよ!!」
「無理だよ、だって俺––––」
両手を上げながら、先日行ったミライとの大激闘を思い浮かべる。
「魔力空っぽだし」
肩から提げたカバンの中に入った『マジタミンΩ』のことは……まだ誰にも知られていない。
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