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第339話・思惑と奇襲

 

 ––––フォールティア王城内 中庭。


「いやー、凄かったね〜あの宣戦布告。傍で聞いてて思わず鳥肌立っちゃったよ。やっぱなんというか王族は覇気が違うよね!」


 隣で木陰に身を預けていたアリサが、ボクサーのように拳を突き出しながら呟く。


 アイリ王女の演説が終わり、俺たちはしばらくの自由時間を与えられた。

 予定では、この後しばらくしてから王女主催の夕食会が行われることになっているのだが……。


「っ……」


 俺の脳裏に、アイリ王女の首元が過ぎる。

 アレは間違いなく、以前にファンタジアで俺が付けた傷だ。

 やはり……大怪盗イリアの正体は––––


「どしたのアルスくん、考え事?」


「んっ、あぁ……まぁな。いよいよ天使と戦争かと思うと、一層気を引き締めてかなきゃと思って」


「そだね〜、強いて言ったら……あの2人みたいに?」


 アリサが視線を向けた先には、2人の少女がいた。

 彼女らはただそこに座ったり立ったりしているのではない、衝撃波がこっちに届くほどの戦闘を繰り広げていた。


「剣筋のキレがまだまだ甘いですよ。ブラッドフォード書記、魔法の発動時間もあと0コンマ2秒早めてください」


 ショートボブの金髪に片方だけシュシュで括った、誰がどう見ても美人であると言える小柄な少女。

 王立魔法学園のNo.2にして、副会長のユリアが自身の宝具を魔法杖モードで振るっていた。


 相手はもちろん––––


「ッ……! 了解!!」


 輝くポニーテールの茶髪をなびかせ、先ほどからユリアに猛攻撃を仕掛けているのはこちらも美少女。

 しなやかな体躯で、長身のペン型魔法杖を振り回す彼女は生徒会書記のミライ・ブラッドフォード。


 今は『雷轟竜の衣』に変身しているので、雰囲気がいつもと少し違う。

 髪は淡く光り、瞳はエメラルドグリーンへ変貌していた。


「ミライさんも物好きだよね、ユリの戦闘指導って超スパルタなのに」


「なんだアリサ、やったことあるのか?」


 身を震わせたアリサは、おぞましい記憶を呼び起こすように顔を青くする。


「前にお試しというか好奇心で1回ね……。後悔したよ、結論だけ言うと憔悴からの気絶して終わった記憶がある……ふと気付いたら全身アザだらけだった」


「うっわ……、まぁ見るからに––––」


 ユリアの打撃をモロに喰らい、吹っ飛んで転がるミライが映る。


『雷轟竜の衣』に変身した彼女は強い。

 これは紛れもない事実だが、今目の前でやっている練習試合はユリアが終始圧倒していた。


「脇腹ががら空きですよ、それじゃあ雷轟竜の力を全く活かせていません」


「ゲッホッ……さすが厳しい」


 咳き込みながら起き上がるミライ。

 どうも血界魔装の“鎧”の領域を探るためらしいが、俺的には今あんまし消耗して欲しくないんだよなぁ。


「およ? アルスくん何それ」


 俺がカバンから出した紙とペンを見て、アリサが覗き込んでくる。


「人の手紙を覗くのはマナー違反だぞ」


「彼女だし良いじゃんっ、誰? 誰に送るの!?」


 こうなったアリサを振り切るのは不可能だ。

 俺は仕方なく、カバンを下敷き代わりに見える形で書き始めた。


 半分まで書き終わった文字を見て、


「……これ何?」


 疑問を呈するアリサ。


「相手は正義の大怪盗らしいからな、こっちもそれに倣うだけだ」


「あー、そういうこと。だからミライさんに“あんな物”用意させたんだ」


 俺の肩に頭を乗せながら、横に座るアリサ。

 花のような良い匂いが漂う。


「見た目から入るのは重要だろ? 現に、俺これからヤバいことやるわけだし吹っ切れる必要があんだよ」


「それはわかるけどさ〜、そんなの書くってことは確証得られたわけ?」


「当然だろ、ほぼ確だ。ったく……俺もだが、もうちょいマシなネーミングセンスは無かったもんかね」


 書き終わった紙をしまった瞬間、俺たちの耳につんざくような音が入り込んだ。

 サイレン混じりに避難するよう呼びかけるアナウンス、“空襲警報”だった。


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