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第338話・暴虐の大天使エリコ

 

「お久しぶりですアグニ、相変わらずお姉さまと召使いごっこしてるんですね」


「私はいつでもミニットマン様の純然たるお世話役ですよ、これも大事なお約束ですので」


「フフッ、変わりませんね」


 恭しく頭を下げるアグニ。

 突然現れた黒髪の大天使に、ミニットマンは席を立ちながら嫌味混じりに応じた。


「通告? 傍若無人、暴虐の大天使たるアンタが……随分と律儀になったもんじゃない。今日はレーヴァテインの剣でも降るかしら?」


「常識をわきまえるようになっただけですわ、最も––––ミニットマンお姉さまにその“常識”があるかは知りませんが」


 返された挑発が相当気に入らなかったのだろう、ミニットマンは白色の翼を大きく広げながら進み出す。

 それを見て、ため息をついたアグニは一歩下がった。


「妹の分際で、姉のわたしに随分と偉そうじゃない……エリコ。いつからそんな生意気になっちゃったのかしら」


「生意気ですか? フフッ……本当にそう見えました? これでも一応、年長者へ最大限の敬意を払っているのですけどね」


「それ以上喋ったらホントに殺すわよ?」


「殺す? このわたし––––暴虐の大天使エリコをですか? だったら……ぜひ今やってみてくださいよ。お姉さま?」


 エリコの金色に輝く瞳が、勢いよく開かれた瞬間だった。

 暴風、衝撃波、爆発、覇気––––それらどれとも呼べるような圧力が部屋全体に放たれた。


 常人、いや……たとえ歴戦の戦士だったとしても、その場にいればあっという間に意識を持っていかれてしまうだろう。

 部屋が軋み、壁が悲鳴を上げる中––––向けられた暴虐の中心にいた大天使ミニットマンもまた、金眼を見開いた。


「ッ」


 互いの中心で、神力の嵐と嵐がぶつかり合った。

 天井が砕け、カラフルに彩られた部屋が崩壊していく。

 大天使同士の本気の睨み合いは、時空を歪ませ周囲の時間を遅らせるほどだった。


「アンタ如きがわたしとやり合う気? エリコ、冗談も大概にしなさいよ……」


「冗談ではありませんよ、それとも––––このままブラックホールができるまで空間密度を上げますか?」


「そんなつもりは無い、改めて言わせてもらうわ」


 ミニットマンから放たれる圧力が、エリコの倍以上にまで膨れ上がった。

 あまりの力に気圧され、エリコの踵が床を擦る。


「用件だけサッサと言いなさい、そうすれば……優しいお姉ちゃんが許してあげるから」


「……チッ」


 神力のぶつかり合いが、ゆっくりと終わる。

 先に矛を収めたのはエリコだった。


「良いですわお姉さま、ご要望通り用件の方を先に言いましょう」


「フンッ、最初からそうしてれば良かったのよ。ったく……すっかり部屋がボロボロじゃない、せっかく飾り付け頑張ったのに」


 文句を言いながら椅子に戻ったミニットマンは、ドッカリと腰を下ろした。

 ドレスの埃を払ったエリコもまた、彼女と向き合う。


「人類は既に、お姉さまの所有物である『フェイカー』工場を発見しております。場所は大洋の孤島ですが、どう守るつもりであらせられますか?」


「ミリシア王女を惨殺して、戦争が何たるかを人類に教えてあげるのよ。既に天騎士旅団には出動を命じたわ、勝負なんて一瞬で着くでしょ」


「仮にミリシア王女を惨殺できても、向かってくる艦隊は止められないのではありませんか? むしろ、怒りに任せて核攻撃を行う可能性すら……」


「そうなったら自滅するのは人類よ、戦略核攻撃は万能じゃない。使い過ぎれば天体の気候に影響が出て、農業や食糧安全保障に障害が出るわ。いずれ放射能も無視できなくなる……これ以上の核攻撃はまずありえない」


 ミニットマンの回答に、つまらなそうな表情をしたエリコは押し出すように呟いた。


「では、ミニットマンお姉さまは人類の攻撃を何も脅威に思っていないのですか?」


「いいえ、危惧すべき点はいくつもあるわ––––特に」


 腕を大きく振ったミニットマンの眼前に、1人の男が映し出された。

 白色基調の制服を身に纏った灰髪の青年、名は––––


「人類唯一の竜王級魔導士……アルス・イージスフォード、あの大天使スカッドすら倒したわたしたち天使の最大にして、最強の大敵。ほら見てエリコ!」


 空中に浮いたスクリーンに、アルスが大天使スカッドと戦っている最中の映像が流れる。

 とても目では追えないような速度で、蒼色の流星がスカッドへ一切の反撃を許さずに攻撃していた。


 ミニットマンは無邪気に指差す。


「人間がここまでの魔力放出に耐えられるなんて、普通じゃ絶対あり得ない。まるで––––数百年前の“あの方”みたいだわ」


「確かに……似てますね、“あの方”と。同じ竜王級ですし」


「まぁわたしの心配は良いのよ、敵の艦隊は止めて見せる。助けもいらない、早く聞かせて––––アンタはどんな腹案を持って来たわけ?」


 ニッと笑ったミニットマンを見て、エリコもまた頬を吊り上げる。


「人類を全ての海洋から駆逐し、あらゆる大陸間交通手段を破壊する最強の破滅計画。名前は––––『エンジェル・フリート』計画です」


 エリコの金眼が、不気味に光を反射した。


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