第337話・天界の反撃措置
「きゃっはははははは!! 言ってくれるじゃないあの小娘! このわたしたちに宣戦布告ですって、呆れを通り越して痛快極まるとはまさにこの事だわ!」
カラフルな風船やお菓子で彩られた玉座の間、最奥の椅子で座っていた青髪にゴスロリチックなドレスを着た少女が、腹を壊さんばかりに笑っていた。
彼女は名を––––大天使ミニットマン。
アイリの宣戦布告を聞いた彼女は、先程からずっとこの調子だった。
そんな彼女へ、嗜めるような声。
「笑い事じゃありませんよミニットマン様、どうやら人類は本気のようです」
「ハッハハ! ハァッ、はぁ……本気? 何を見てそう判断したのよ」
ミニットマンが視線を向けた先に立っていたのは、執事然とした長身の男性。
唯一人類と差異があるとすれば、背中から生えた純白の羽根だろう。
こちらは名を、アグニと呼ばれていた。
彼は真剣な面持ちで声を出す。
「ついさっき、我らを祀った古代神殿が世界4ヶ所で同時に––––“先制核攻撃”を受けました。いずれの神殿も既に消滅しています」
「ちょっと! それ普通に困るやつじゃない、信仰を神力に変換するわたしたち大天使のパワースポットよそこ!」
「攻撃国はアルト・ストラトス、世界唯一の核保有国です。おそらく……天界に精通した人材がいるのでしょう、これは本気であることを示す意志表示かと」
「へー、わたしたち天使を葬るためなら核の冬もいとわないって? 健気なもんじゃない、でもお気に入りの神殿を潰されたのは辛いわねぇ」
飴玉を口へ放ったミニットマンは、細い足をふとももの上で組んだ。
「けれど連中の判断は正しいわ、信仰を失えばわたしたち天使は弱体化する。重要パワースポットを4つ同時に潰すなんて……アッハハ! 見直したわ! それでこそ人類! わたしの目論む『パーティー』の客として十分だわ!!」
手を大仰に広げたミニットマンは、アグニに対し熱弁する。
「そうだ! せっかく連中が宣戦布告してきたんだから、これをパーティーの前座にしましょう!」
「っと、申されますと?」
「ただちに【天界】へ連絡しなさい、大天使権限でコードにアクセス。『天騎士旅団』の出動を命じるわ!」
「了解致しました、して……襲撃目標は?」
「決まってるじゃない、今特にホットなミリシア王城よ。あの生意気な小娘をこの戦争の最初の贄にするの、きっと良い前菜になるわ」
「なるほど、それはよろしゅうございますな」
「決まりね、天騎士旅団はその全てが人間共の言う“エルフ王級魔導士”を遥かに超える実力を持っているわ。開戦直後に王女が惨殺……プッハハ! 最高じゃないアグニ!」
またも高らかに、機嫌良くミニットマンが笑う。
バカ笑いし過ぎたせいだろう……、部屋の扉が開いたのに彼女は全く気づかなかった。
入室者は、楽しそうにする青髪の大天使へ微笑み掛ける。
「相変わらず元気たっぷりですね、大天使ミニットマンお姉さま」
「アッハハハ––––ゲホッゲホッ!? はっ? あんた!!」
噛み潰した飴玉でむせて目を白黒させるミニットマンと、背後を取られていたことに今気づくアグニ。
2人の大天使は、来訪者を強く睨め付けた。
「どうしてここがわかったのよ……暴虐の大天使、エリコ」
立っていた黒髪ショートヘア、こちらもまたゴスロリ風なドレスを身に纏う少女へ、ミニットマンは殺意を向けた。
しかし金眼の女は、向けられた大天使級の覇気に全く怖気付かない。
「ミニットマンお姉さまに1つ報告……というか、通告があって来た次第ですわ。大丈夫……戦闘目的ではありませんので」




