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第336話・先制攻撃

本日より新章開始です!

尚、本作はフィクションであり現実の情勢や特定の思想を賛美肯定するものではありません。

 

 ––––アルト・ストラトス王国領 ロンドニア郊外 ウェストマスター弾道ミサイル(IRBM)発射基地。


 40基ものバンカー型ミサイル発射台を有したこの基地に、けたたましいアラートが鳴り響いた。

 地下深くの防空司令センターで、基地司令がメモを片手に入室する。


「参謀本部より例の符号が届いた、デフコンを最大レベルに引き上げろ。作戦を開始する」


「遂に……、【天界】へ宣戦布告でありますか?」


 副司令の問いに、「そうだ」と司令は淡白に返事をする。

 奥に目をやると、広大なモニターにメルカトル図法で記された世界地図が映っていた。


 グラジオン大陸や、ミリシアの存在するラロナ大陸までキッチリ記されている。

 この世界地図こそ、超大国アルト・ストラトスの攻撃可能範囲そのものだ。


「ただいまより本基地は、天界勢力拠点に対し“先制核攻撃”を行う!! 攻撃準備ッ!!」


 司令の声で、順次攻撃要員が魔導タブレットへ手を伸ばす。


「攻撃目標策定! 第1目標、西方3000キロのアマルテア大神殿!」


 地図に赤色のロックオンマークが付いた。

 あえて言うなら血色、死の宣告を意味するおぞましい印だ。


「続いて第2目標、南南東約3500キロのリシテア島神殿!」


 再びロックオンマークが点灯した。


「第3目標、西南西約5000キロのレルナ神殿! 第4目標、西北4500キロのミュデール山脈大神殿!! 座標入力中!!」


 発射要員の言葉に、副司令は暗くなった室内で横を見る。


「この攻撃目標は、誰が決めたんです? あれは全部無人の神殿ですよね?」


「元勇者であるラインメタル大佐からの情報だ、天使共は信仰を糧に己の力を増していくらしい。言うならば……奴らの力の源だ」


「なるほど……敵の最重要拠点を、まず真っ先に叩くわけですな。戦略上とても合理的です」


「あぁ、信仰を失えば失うほどに天使共は弱体化していく。そして––––これは我々が本気であることを、奴らへ知らしめるための意志表示でもある」


 世界地図の広範囲に、4つの赤色マークが付いた。

 いくつものアラートが重なり、基地内に緊張が走る。


「座標入力完了! V4中距離弾道ミサイル発射準備よし! セーフティ解除!!」


「セーフティの解除を確認、発射管ハッチ開きます」


 振動が始まり、ミサイルの固定が解除されていく。

 大空に向かって、先端部が突き出す。


「カウント開始、発射60秒前––––!」


 基地司令は、持っていたメモをポケットにしまった。


「もう引き返せないな……」


「既にミリシア第一王女によって宣戦は布告されております、誉れ高き一撃目を撃ち込む楔の役目を……我々は果たすだけですよ」


「あぁ……そうだな、歴史は––––天使はもう人類の味方じゃない。持てる全ての手段で叩くと『連合王国同盟』は決めた。ならばっ」


 基地内アナウンスに発射30秒前の予告が流れた。

 司令と副司令は、共に眼前の鍵穴へ最終ロックキーを突き刺す。


「義務を果たそう、軍人として……人類として。超大国アルト・ストラトスこそ世界の警察たらんと」


「発射10秒前––––!」


「これは世界の破壊者に告げる警告だ、人類はもう……貴様らに一切容赦しないと教えるためッ!!」


 2人が同時に、キーを横へ回した。


「最終ロックの解除確認!! 全IRBM! 一斉発射ッ!!!」


 とてつもない振動と爆音が基地にこだまし、開かれたハッチから次々にミサイルが飛び出した。

 発射炎と煙が溢れ出し、軌跡となって空へ延びていく––––


「発射成功、全ミサイル正常飛行––––! 指定座標へ向かいます!!」


 あっという間に大気圏外へ抜け出したミサイルは、宇宙空間で弾頭とブースターを分離、ミニマムエナジー軌道でそれぞれの目標へ矛先を向け急降下を開始した。


 迎撃などできようはずもない、ターミナルフェイズに入ったIRBMに対処できる兵器は、まだこの世に存在しないのだ。


 隕石を彷彿とさせる尾を引きながら、大気圏再突入を行ったIRBMは誤差を数百メートルに収めながら、目標の神殿上空で起爆した。


「弾着ッ!!」


 天使を祀る神聖な建造物が、世界各地で一瞬にしてバラバラに吹き飛んだ。

 15キロトンの核弾頭は、有効範囲内の遺跡諸共を木っ端微塵に打ち崩し、燃やし尽くす。


 立ち昇った巨大なキノコ雲を一言で現すなら––––


 “人類からの宣戦布告”、そう表現すべきだろう。

 この先制核攻撃によって、世界各地にあった天界拠点4つは二度と使えないレベルでもって破壊され尽くした。


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