第335話・宣 戦 布 告
第一王女による世界への演説。
これから行われるこれに、俺たちは参列を求められた。
「アイリ殿下万歳ッ!! ミリシア王国万歳!!」
「あれが王立魔法学園生徒会だ!! 伝説の竜王級魔導士もいるぞ!!」
「王国万歳!! 竜王級万歳!!」
王城上層部のバルコニーに案内された俺たちは、敷地内いっぱいに集う大量の兵士を見下ろし圧倒されていた。
俺たちを見て、兵士たちは高らかに、豪傑に大声で叫ぶ。
あちこちで王国国旗がはためき、兵士の波がうねりを起こす。
アイリ殿下が一歩前に進み、小さな右手を挙げるとたちまち歓声は静まっていく。
最後のさざなみが消えたのを確認すると、王女は自ら拡声魔法を展開した。
「親愛なる同胞の諸君! 誇るべき友邦の民よ! 今日この時を迎え––––わたし、ミリシア王国第一王女、アイリ・エンデュア・ミリシアはある報告と宣言を行う!!」
拡声魔法抜きでも芯の通った声は、俺たちに電流のような感触を与えた。
マスターもアイリ殿下も言った、今日が歴史の転換点だと。
つまりこの演説は、ただの決意表明やそんなものではない。
これから歴史のページが……インクの付けられたペンで描かれる瞬間なのだ。
「皆も知っての通り、先日我ら王国は1つの巨大な闇ギルドと戦いました! ここにいる王立魔法学園生徒会の多大な協力と活躍、そして友邦兵士諸君の健闘もあって輝かしい勝利を手にしました!!!」
全身を燃やすように、王女は全てを圧倒せんばかりに腕を振った。
「しかし! これで何もかもが終わったわけではありません! いえ、むしろ始まりとすら言えます! 何故なら––––その闇ギルドが、世界を転覆させようとした悪の権化こそ、わたしたちが古来より讃え、崇めし存在だったのです!!」
拡声魔法の出力が、全開となって王都中に声を運ぶ。
届けられるのは、ずっと秘密にされるだろうと思っていた真実。
「その名は“大天使”!! 大天使スカッド!! 今は消滅した【練習都市アルストロメリア】が古来に崇めた、道理の防人にして神書に書かれる存在だったのです!!」
見てわかるどよめきと動揺が、ミリシア兵士の間に広がった。
あの作戦に参加した者は、ヘブン・ブレイク作戦という名の意味を今悟っただろう。
「人類を庇護し、発展を助けたとされる古の大天使が、あろうことか我々に敵意を向けていたのです!! これは––––王政府内で直接確認されたまごうこと無き事実です!!」
王女は止まらない。
止まる予定など無い、そう言わんばかりに喉を酷使した。
「国民の皆様、引いてはアルナ教の信者の方にとっては大変信じ難いかもしれません!! しかしわたしは今この場で、国家が総力を結集して導き出した結論を言わなければなりません!!」
もう後戻りできない一歩を、アイリ殿下は踏み進んだ。
「神話に記された大天使たちは、人類の味方ではありません!! 最新の分析では、残った未確認の大天使たちによる人類殲滅がほぼ行われると断定されました!!」
……分かってはいた。
スカッド然り、コミフェスを襲ったアグニ然り、それを指示したミニットマン然り––––奴らが人類の味方じゃないとはわかっていた。
けれども、信仰主義が中心となった今の世界でこの報告は破綻覚悟の大博打。
人々に与える影響は計り知れない。
「この事実を受け、我が王政府は関係を持つ全ての友好国と協議––––その結果」
アイリ殿下は、拡声魔法陣越しに歴史のページへ殴り書きした。
その内容は、まさしく天地がひっくり返るほど衝撃的なもの。
「我がミリシア王国、そして同盟国アルト・ストラトス王国! 次いで東ウォストピア王国! 新生魔王国からなる『連合王国同盟』は––––天界勢力に対し今日、“宣戦布告”を行う運びとなったッッ!!!!」
––––宣 戦 布 告。
攻守逆転とはまさにこう言うのだろう。
今まさに、交代するかのように人類と天使の立場が入れ替わった。
やられっぱなしだった人類が、真実を受け止め前進したのだ。
「これに先立ち!! 同盟諸国からなる連合艦隊が既に抜錨!! 数多のテロを引き起こした忌々しい人工宝具、『フェイカー』が製造されていると思しき天界勢力拠点へ、報復攻撃を行うことが決定された!!」
同時に決意する。
これは始まりだ、俺たちが半年前……夏のコミックフェスタのテロに巻き込まれた瞬間から確定していた未来。
大天使たち天界勢力から、俺のホワイトライフを守るための戦い。
「我々は屈しない!! 我々は挫けない!! 我々は膝をつかない!! 上位存在に見せつけようじゃないか!! 我ら人類文明は、神から完全自立した自由意思の存在であると!!」
風が吹き、尖塔の国旗群が一斉にはためいた。
「我々はあらゆる戦力でもって天使を殲滅する!!! もし天使共がこれを聞いているなら今言ってやろう!! お前らの神秘のベールは––––今日をもって剥がされたと!!!」
今日は……まさしく歴史の転換点だ。
俺は戦闘の覚悟を決めると同時、第一王女を睨むように見つめた。
ずっとこの瞬間を待っていた、確信が欲しかった。
それが今––––来たのだ。
「会長」
隣でユリアが囁く。
大演説で汗をかいたアイリ殿下から、隠すように塗られていたメイクがジンワリと剥がれ落ちていた。
端正な顔ではない……、首だ。
焔の鉤爪で付けられた首元の傷跡が、クッキリ浮かんでいたのだ。
これにて第11章【王城謁見編】は終了、次回より新章開始です!
更新を引き続き楽しみにお待ちください!




