第334話・王国第一王女 アイリ・エンデュア・ミリシア
「いよいよだな……」
ベリナ&カルミナの近衛大隊長と一触即発になったすぐ後、王城の兵士が俺たちを呼びに来た。
遂に第一王女との謁見が始まるのだ。
荘厳で広い通路を歩いて行くと、やがて1つの巨大な扉が現れた。
「やぁアルスくん、準備は良いかい?」
扉の前で待っていたのは、近衛総連隊長のグラン・ポーツマス大佐だった。
今はまだ、彼女らのことは黙っておこう。
「はい、ここが謁見の間ですか?」
「そうだ、身なりと心の準備ができたなら……進むと良い。この先でアイリ殿下がお待ちだ」
唾を呑み込む。
これから会うのは、これまでとはまるで意味の違う最高権力者。
ミリシアのトップにして、最も由緒正しき王の血統の持ち主。
「行くぞ、みんな」
各々から覚悟を決めた返事。
こくりと頷いたポーツマス大佐は、反対側にいた兵士と一緒に門をゆっくり開けていった。
「行ってらっしゃいアルスくん、皆。ここが歴史の転換点だ」
中に歩を進めると、だだっ広い空間と真ん中に敷かれた赤色の絨毯。
それを挟むように、槍を持った近衛騎士が何人も立っていた。
視線を向けた先、最奥の玉座に––––彼女はいた。
「ようこそいらっしゃいました、王立魔法学園生徒会の皆様」
腰まで伸びた輝かしいシャンパンゴールドの髪と、凛々しいながらも噂通り14歳らしい幼さも残る相貌、けれど白が基調となったドレスは威厳を醸し出すに十分。
彼女こそミリシア王国の誇る第一王女––––
「お招きいただき光栄です、アイリ・エンデュア・ミリシア第一王女殿下」
王女の前まで来た俺たちは、作法通りにその場で膝をついた。
それに対し、アイリ殿下は柔らかい声で答えてくれた。
「お顔を上げてください、救国の魔導士たちに顔を下げられたとあっては、わたしも立つ瀬がございませんので」
言われたままにゆっくり顔を上げると、優しく微笑む第一王女殿下が玉座に座っていた。
これが王族……、同年代の一般人とは雰囲気からして違う。
俺はまず、最初に言おうと決めていたことを口開いた。
「アイリ殿下、以前行われたキール社会主義共和国による我が国への内政干渉の件につきましては、ご協力いただき感謝いたします」
一瞬黙った王女殿下だったが、すぐに意味を理解したのだろう。
クスリと笑い、喉元を触った。
「問題ありません、王政府として公安本部の暴走を止める義務がありましたので。おかげで汚職操作も一気に進みました」
そう、何ヶ月か前に発生したアリサ拘束事件時。
俺が脱獄させたアリサを追うクラーク率いる公安を、王政府の命として眼前のアイリ殿下が止めてくれた。
おまけに、アリサが働いていたグレーゾーンな行為に、寛容にも目を瞑ってくれたのだ。
ここに来たら、まず真っ先にこれのお礼を言おうと思っていた。
「お元気そうで何よりです、アリサ・イリインスキーさん。学園生活は充実していますか?」
「はっ、はい! おかげさまで大魔導フェスティバルにも出られました、先の件につきましては……本当にありがとうございました」
「良かったです、貴女は魔壊の力で勇敢に政治将校や闇ギルドに挑みました。その功績はとても素晴らしいものです」
「ありがとうございますっ」
緊張で汗を流しながらも、しっかり答えるアリサ。
やはり王族は、アリサの働いたグレーゾーンな行いよりも、彼女が生み出す利益の方が重要だと考えたのだ。
「ミライ・ブラッドフォードさんの活躍も聞いております、貴女の創作活動は、我がミリシアの文化的発展に欠かせないものです」
「も、勿体ないお言葉です! これからもミリシアの文化的発展に寄与できれば幸いです……!」
「フフッ、ルールブレイカーとの戦闘でも、貴女は雷轟竜の力で悪に落ちたドクトリオン博士を止めてくださいました。その決断と力に感謝を」
「あ、ありがとうございます!」
ミライもまた、なんとか噛まずに答え切った。
「ユリア・フォン・ブラウンシュヴァイク・エーベルハルトさん、数ある学び舎の中から我が国の王立魔法学園をお選びいただき、王女として誇らしい限りですよ」
「ミリシアは大陸一の栄華を誇る国家、そこの最高峰たる学園に行きたいと思うのは至極当然の結果です」
「そう言って頂けると嬉しいですね、貴女のような天才は世界を探してもそういません。先のルールブレイカー討伐戦では、『神結いの儀式』による大天使スカッドの完全神化を防いだ功績もあります。貴女に––––改めて感謝を」
「ありがとうございます、王女殿下」
先程までの緊張はどこへやら、ユリアは非常に落ち着いた声で受け答えしていた。
そして––––
「竜王級、アルス・イージスフォードさん。ルールブレイカーとの決戦において……貴方は誰よりも多大な活躍をなさいました。ヘブン・ブレイク作戦は、貴方抜きでは絶対に完遂し得ないものでした」
「ありがとうございます。でも俺はただ、大事なこの世界を……もっと言えば俺の家族を。なんとしても守りたかっただけです」
「動機はなんであれ、貴方は大天使と半女神を倒し、我が王国を救ってくださいました……。第一王女として、その強さと剛健さに敬意を払います」
“また”首元を触ったアイリ殿下は、俺たちを一瞥して席を立った。
「さぁ、では行きましょうか……。今日が長きに渡る支配を打開する歴史の転換点です」




