第331話・当日
とうとうこの日が来た。
––––王城謁見。
闇ギルド、ルールブレイカーを倒した俺たちへ来た突然過ぎるイベント。
王国第一王女殿下との謁見、食事会。
“全ての準備”を終えた俺たちは、向こう方の指定通りに学園の校門前で迎えを待っていた。
「ねぇねぇ! 迎えってどんな車両が来ると思う!?」
既にウキウキのアリサが、制服姿で俺たちを見た。
そう、一時何を着ていこうか騒いでいた俺たちだったが、結局のところ制服しか選択肢が無いことに気がついたのだ。
っと言うのも、単純に忙しすぎて専用の服を用意できなかったこと。
また、王立魔法学園の生徒会として招待されたので、これが正装で良いだろう……と相成ったわけである。
「やはり馬車ではないでしょうか? 由緒正しきミリシアの王室は、伝統を重んじると聞いています」
ユリアの言葉に、ミライが首を縦に振る。
「良いシチュエーションだわそれ、んでもって近衛のカッコいい騎士がエスコートするのよ。雰囲気としては抜群じゃない?」
俺は別段興味ないが、やはり女子としてはそういうムードや雰囲気を重んじるのだろうか。
やれ馬車だ、やれ高級車だ黄色い予想が俺の横で飛び交っている。
「アルスならどう? もし国を救った英雄を迎えに行くならどんな車両寄越す?」
「は?」
唐突にふられてしまった俺に、ロクな答えなどない。
短絡的な思考の果てに一つだけ言い放った。
「重要警護対象だから……、重機関銃で武装した装甲車の車列を迎えに行かすかな? 可能なら対テロ部隊も随伴させて」
「……アルスにムードという概念を期待したわたしがアホだったわ」
「なっ! 別に間違ってないだろ!? 移動中に対象が殺されたらどう責任取るんだよ! 市街地なら重機関銃で制圧射撃しつつ転身、重装甲車を殿に警護対象を即刻逃すべきだ!」
「とても竜王級のセリフとは思えないわね〜、なんで発想が魔力使えない一般人前提なのよ。魔導士が数人いたんじゃダメなの?」
「雑多な魔導士より、機関銃で武装した兵士の方が遥かに強い。ファイアボールで800メートル先から飛んでくる対戦車ライフルには対応できん」
「わからんわー、こいつの思考回路わからんわ〜。ねぇエーベルハルトさん?」
ミライが顔を横に向けると、なぜかそこには熱心にメモを取るユリアの姿。
「……エーベルハルトさん?」
「えっ? はい」
「何をメモってるわけ……?」
「いえ、自分が将来誰かにお迎えを渡す時の参考にと。さすが会長です」
「ちょいちょいちょい! 無いから! そんなシチュエーション一生来ないから!! 普通の学校が武装集団に占拠されるのと同列の妄想だから!」
「そうでしょうか……、わたしにはとても合理的な案に思えたのですが。会長の言葉には筋が通ってますよ? 実際魔導士って、案外頼りになりませんし」
「最強の魔導士が2人して魔導士を否定するなぁ! もういい、アリサちゃんは?」
半ば救いを求める目で、ミライはアリサを見る。
「もちろん異議ありだよ、アルスくん! ユリ! もっと真面目に考えよう!」
そう言って、アリサは自信ありげに腕を組んだ。
「わたしは特に何も思い浮かばないけどね」
フンスと鼻を鳴らし、ドヤ顔で宣言。
とりあえず論外は無視することにして、俺は遠くに見えた影に目を凝らした。
「来たぞ、アレじゃないか?」
近づいてくると、おぼろげだった輪郭がハッキリしだす。
馬車ではない、かと言って俺が想像したような軽装甲車両でも無い。
「えっ?」
見間違えではなかった。
20ミリ機関砲を装備した重装甲車を筆頭に、真ん中へ見慣れた軍用車両––––、名をキューベルワーゲンが走って来たのだ。
重装甲車に挟まれるようにして眼前で停まったキューベルワーゲンから、これまた見慣れた……っと言うか朝見たばかりの人が姿を現す。
「お待たせしました、王立魔法学園の皆様」
呆気に取られる俺たちの前に立ったのは、全身を青色基調の軍服で包んだ男性。
喫茶店ナイトテーブルの店主にして、大英雄––––
「ミリシア王政府直轄独立護衛部隊、王国近衛連隊 総連隊長––––グラン・ポーツマス大佐です。王立魔法学園の方々、どうぞ車両に……アイリ王女殿下がお待ちです」




