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第330話・真の対等な関係へ

 

『マジタミンB』を飲んだミライは、溢れ出る魔力により予想を超える速さで回復した。


 夕方に医務室で公式戦の感想を聞いたところ、一応変身時の記憶はあるらしい。

 俺をかなり良いところまで追い詰めたことにも、少し自信を持っているようだった。


 問題は––––


「やっぱ……再現性無い?」


「うん、まだ自力じゃ無理っぽい」


 っと、すっかり日も暮れた大通りで歩きながら呟くミライ。

 一応怪我人のこいつを家まで送りがてら、詳しく聞いてみようと思った矢先の言葉である。


「多分だけどさ……鎧のレベルまで変身するにはやっぱ血、アルスの言う通り“血”が関係してると思うの」


「名前が血界魔装、だもんな」


「そうそれ、わたし今日めっちゃ出血したじゃん? 肩から溢れ出るわ口から漏れ出るわ。血みどろだったじゃん?」


「やったのが俺だから素直にウンと言えないが……、まぁそうだな。血塗れだったよ」


 俺の苦虫を噛み潰したような顔に、ミライは笑いながら背中にカバンをぶつけることで応えた。


「良いってばそんな気にしなくて、おかげで新世界を開拓できたわけだしさ。結果的に負けたけど、アルスを追い詰めれたわけだし」


「最後の攻撃は……本当に悪くなかった。お前の想い、しっかり伝わってきたよ」


「アリサちゃんに聞いたわ、アルスめっちゃ右腕痺れてたって」


「マジ痛かったよ。けど安心もした、これなら離れ離れにならず済みそうだって」


「そっか〜、そうだよね。わたし……正直戦力外だったもんね」


 そこまでは、っと言おうとして……すぐに口を閉じた。

 この際ハッキリ言おう、確かに俺はミライを戦力として期待していなかった。


 守るべき、庇護すべきか弱い存在だと認識してしまっていた。

 けれどもそんな関係は、ミライが望んだ対等な関係とは到底言えない。


 それが彼女的にもかなり嫌だったらしく、積もり積もった想いがあのパワーを生んだのだ。

 いわば––––


「彼氏への不満爆発、ってやつ?」


 街灯に照らされたミライの顔が、ニッと微笑む。

 バツが悪くなった俺は、つい顔を逸らしてしまった。


「悪かったよ……、誓い合ったことと反対の関係になっちまってて。俺はもうお前を庇護対象としては二度と見ない、これからは……ちゃんと対等で互いに求め合える関係でいよう」


「ん、ありがと……。でも世界最強の彼氏に改めてそう言われると……なんだか意味が重いわね」


「なっ、お前が求めたんだろ!」


 思わず振り向く。


「なっはは、ウソ嘘。わたしも頑張って『雷轟竜の鎧』––––モノにして見せるからさ、しっかり見といてよ?」


「……了解」


 ふと、まだ包帯を巻くミライの頭を撫でてみた。

 柔らかい茶髪が触れると、彼女もどこか気まずそうに体をくっつけてくる。


「急に撫でんな、ビックリするでしょ……」


「こっちこそ急に寄んな、歩きにくいだろ」


 けれども何故か、手を離したくなかった。

 居心地がいい、体温が直に伝わってくる。

 ミライもまた、俺が本気で拒絶していないのを知ってかくっついたまま。


「ありがとう……アルス、今日は本気で殺しに来てくれて。こいつ、わたし相手だと一生手加減するんじゃないかなーってちょっと心配だった」


「しねーよ、もう手加減して良い相手じゃねーしな」


「その言葉が超聞きたかった」


 満足そうに言った彼女は、俺の手を優しく握った。

 一般に言う、恋人繋ぎである。


「今日はわたしがアルスに色々求めちゃったけどさ、逆に無い? アルスがわたしにして欲しいこと。求めたいこと」


 そんなミライの問いに、俺は思案していたあることを口に出す。


「……お前、アリサほどじゃないけどコスプレ衣装持ってたよな?」


「は? コスプレ? なにアルス! 遂にレイヤーデビューすんの!?」


「違う。しない、でも––––」


 俺は次の一言だけ、トーンを落としながら言った。


「少し必要になったんだ、もし目当てのがあったら……ちょっとだけ貸して欲しい。大切な神器を奪われたままの人のために」


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