第326話・雷轟竜VS滅竜王
「いっつ……!! やっと来たわね……『ブルー・ペルセウス』! それを待ってた」
瓦礫を蹴飛ばして起き上がったミライは、紋様の刻まれた顔に笑みを浮かべる。
「待たせて悪かったな、別に舐めてたわけじゃない。これに変身するのは本当に覚悟がいるんだ」
「わかってる、だからこそ––––」
言い終わる前に、ミライは空中にいる俺の背後を取っていた。
「変身してくれて嬉しいっ」
振られた雷轟の斬撃を、俺は振り向くことなく裏拳で弾いた。
もはやさっきまでの俺とは違う。
今度はこちらがミライを、振り向きざまに思い切り殴り飛ばす。
回避の隙など与えない、神速の拳だった。
「ぐはっ!? ––––クゥッ!」
すぐさま体勢を立て直したミライが、再び超高速移動で姿を消した。
まるでイカヅチが周囲を走り回っているようだが、俺は決して慌てることなく構えた。
「さすがのスピードだな、鎧の名は伊達じゃないか。なら俺も––––」
ブルーの出力を瞬間的に跳ね上げ、俺は周囲の空間がたゆたう程の速度で機動する。
1秒と経たずに、ミライは移動をやめた––––否、やめさせられた。
「えっ……」
俺の目の前で、ミライが困惑の声を上げる。
当然だろう、さっきまで遥かに圧倒していたスピードで駆け回っていたのに、いきなり俺の胸とぶつかったのだから。
「よぉ」
「どっ、ども……」
「挨拶できるなら結構、歯食いしばれっ」
両手を振り上げ、ミライの脳天へさっきのお返しとばかりに叩き落とした。
衝撃波を伴って落下した彼女は、クレーターの斜面へ激突する。
巨大な瓦礫が宙に舞い上がった。
しかしこれでノックダウンなどしてくれない。
すぐさま煙を突き破り、ミライがペン型魔法杖の鋭利な先端を俺目掛けて突き上げた。
刃が顔のすぐ傍を掠める。
「だらぁッ!!」
続く雷撃のコンボを、空中で見切りながら俺は魔力を両手に集中させる。
膨れ上がったエネルギーが、焔として顕現した。
「竜装––––『極焔牙爪』!!」
大怪盗イリア戦で覚えた技を、躊躇なく発動。
灼熱の鋭利な爪を振るい、俺は身体ごと回転させミライの脇腹へ斬撃をお見舞いした。
「いっづぁ……ッ!!」
痛みに顔を歪ませるミライ。
その勢いのまま背後に回った俺は、焔の爪を握りしめて彼女へ強烈なナックルをお見舞いした。
「おらっ!!」
まだ無傷だった平原エリアまで吹っ飛んだミライは、魔法杖を地面に突き立ててブレーキを掛ける。
既にかなりのダメージを与えたはずだが、彼女はふらつきながらも踏ん張った。
「まだ……ッ」
踏み込んだ足が、地面を砕く。
「まだだ……!!」
なんと、さっき与えた裂傷から出た血が……光り輝く紋様に吸い取られている。
それに伴い、ミライの魔力も激しく燃え上がった。
「アルス・イージスフォードッ!!!」
同じく地面に降りた俺へ、ミライは命を燃やさんばかりに声を張り上げた。
さらに、槍のように構えた魔法杖へ電気が集まっていく……。
「わたしのお願い、聞いてくれて本当に嬉しい! アルスの攻撃はやっぱ強烈だ! 食らったら全身がビリビリする!!」
「俺もだよ、お前の電撃は世界一強力だ。本気を出さなきゃこっちが殺される」
「当然よ! だってわたしは––––」
ミライの全身を、魔力とスパークが球状に覆う。
「竜王級の彼女だもん!!」
俺はすかさず最後の魔力を振り絞った。
焔の爪を解き、代わりに分厚い焔の壁を何重にも形成。
来たる“最後の一撃”に備えた。
「滅軍戦技!!!」
大地を蹴ったミライが、杖を先端に据えて一気呵成に突っ込んでくる。
一歩進むたび、周囲に雷が落ちまくった。
「『イグニール・ヘックスグリッド』!!!」
お互いが放つ最後の魔法。
やがてミライは眩い電撃に包まれ、宇宙からも見える1本の流星となった。
「『雷轟撃突弾』ッッ!!!」
8重で張った『イグニール・ヘックスグリッド』が、僅か0.3秒で貫かれた。
俺は全魔力を右腕に集約させ、ミライの命を焦がす一撃を受け止める。
演習場に鐘の音が轟いた。
「うっっ––––ガアアアァァアアアアアアアッッ!!!!」
ミライの絶叫が響く。
鍔迫り合うという表現では足りないほどの激突が、閃光と衝撃波を発生させた。
右腕の骨が軋む……!
これがミライの全想いっ。
今まで抑圧してきた感情の集大成、愛なら誰にも負けないと言わんばかりの全力全開––––本気の滅軍戦技!
これなら––––
「お前は……俺の彼女だミライ! だから!!」
激変の時代を、ずっと一緒にいられる!!
「これからも––––いっしょに進もうッ!!」
大爆発が演習場を中心に広がった。
平原は燃やし尽くされ、噴き上がった光の柱が空を貫いた。
やがて爆煙が晴れた先で、まだ僅かに力の掛かっていた右手から感触が消える。
「会長!! ブラッドフォード書記!!」
飛んできたユリアに、俺はブルーを解除しながらアイコンタクトを送った。
眼前には、髪色が元の茶髪に戻り、紋様も消え去ったミライが倒れている。
俺は右腕をゆっくり押さえた。
「殺す気の愛……確かに受け取ったぞ」
うつむけに倒れるその姿は、最後の最後まで俺を貫こうとした証左。
確信した、ミライはこれからも一緒に居れる。
俺と一緒に、歩んで行ける。
「ミライ・ブラッドフォード、意識喪失により戦闘不能と判定! この公式戦––––アルス・イージスフォードの勝利とする!!」




