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第325話・第2ラウンド

 

 始まった第2ラウンドは、ミライの背後に一瞬で回り込んだ俺が全開の『レイドスパーク』を浴びせることで幕を開けた。


「……」


 ミライを飲み込んだ魔法は、勢いそのままに演習場の地面を深くえぐって大爆発を起こした。

 すぐさま距離を取り、全方位どこから来ても対処できるよう身構える。


「はっ、マジかよ……」


 思わず半笑いしてしまう。

 至近距離から直撃させたにも関わらず、激しいスパークを纏ったミライは無傷だった。


 これは……。


「覚醒した雷轟竜に、電撃の類いは一切効かないってわけか」


 平然と空中に浮かぶミライが、またも予備動作なしで消えた。

 眼を高速で動かし、自分の左に『イグニール・ヘックスグリッド』を展開。


 現れたミライのペン型魔法杖による斬撃を、なんとか受け止める。


「俺の動体視力を舐めるなよ……なんたって––––」


 今度はこちらの番だ。

 障壁ごと肉薄し、ミライへ急接近する。


「テロリストから女神まで、半年で倒した身なんでな」


 障壁が消えた瞬間、一気に肉弾戦へ突入した。

高速化魔法(ミーティア)』を5重でエンチャントし、常識外れのスピードへ変貌したミライに追い縋る。


 互いがあまりに凄まじい速度で移動することから、戦いは平原エリアを超えて森林地帯にまで及ぶ。


 超高速で木々を避け、時に薙ぎ倒しながら俺とミライは攻防を繰り広げた。

 打ち合った攻撃から伝わってくる……アイツの感情、アイツの欲望。


 全部が雪崩れ込んでくる。


「おっらァッ!!」


 カウンターで打ち込んだ拳が、ミライを捉えた。

 森を突き出た彼女は、平原エリアでブレーキを掛けながら止まる。


「舐めるなよッ!!」


 上空から急加速して、俺は隕石のようにミライ目掛けて突っ込んだ。

 噴き上がった地面のどこにも、彼女の姿はない。

 いや––––!!


「これは……っ!?」


 舞い上がった大小様々な瓦礫が、本来引っ張られるはずの重力に逆らって宙に浮いていた。

 微かに見える……俺を中心とした巨大なドーム状に、ミライが囲うようにして高速機動しているのだ。


 周囲を圧倒的な魔力が覆い、瓦礫群は空高くまで昇っていた。


「まさか……、重力すら振り払うとはなっ!!」


 俺はそんなミライを追いかけ、上空の足場を踏み台にして空へ突き進んだ。


「『イグニール・ソニックランス』!!」


 ついさっきミライを貫いた技は、体に掠りすらしない。

 なら……。


 竜王級のパワーで数百本形成し、全方位へ無作為に発射した。

 最初から当てるつもりはない、何故なら––––


「だぁらッ!!!」」


 回避運動を行っていたミライへ、渾身の回し蹴りを叩き込む。

 ガードされたが、さすがに驚いたのか……紋章に覆われた顔が俺を向いた。


「いくら異次元レベルの速度で動けても、軌道を絞れば予測も立てやすい。動きが直線的になってんぞ」


「……さすがね」


 再び距離を取った俺たちは、落下を始めた瓦礫に足を乗せながら向き合った。

 空色の景色が、急速に落ちていく。


「どうだ、新しい世界は」


「正直驚いてる……わたし1人じゃ絶対辿り着けなかった、またアルスに助けられちゃったわね」


「気にすんな、これも生徒会長––––ひいては彼氏の役目だ。それに勝ち取ったこの結果はお前の実力だ、俺は背を押しただけに過ぎない」


「フフッ、そういう謙虚なところ……相変わらずね」


「謙虚なのはお前もだろ? 吐き出してみろよ––––自分の中の欲望をッ! 叫んでみろ! ひた隠しにしてた想いをッ!!」


 瓦礫群が地面へ落下すると同時、俺とミライはまたも高速機動による戦闘へ移行した。

 俺もミライも、互いの進路を読み合って攻撃を先撃ちする。


「わたしの想い……!」


 ミライの速度がさらに飛躍した。

 視界からまばたきする間に消え去るっ。


「それは––––1つ!!」


 背後から聞こえた声に振り向くが、そこに彼女はいない。

 慌てて正面を向けば、ペン型魔法杖を振り下ろす寸前のミライが映った。


「わたしと全力で––––!!」


 ガード、いやっ……!


「戦ええぇえええ––––––––––––ッッ!!!!!」


 放たれた超高出力の雷撃は、俺に感じたこともない激痛を与えてくれた。

 両腕を前で交差して耐え切ると、俺は改めて自分の姿を見下ろす。


 ……服はボロボロで、全身がほのかに痺れる。

 これだ、この感覚だ……。

 今の俺に足りていなかったのは、この痛みだ!


「っ、はあぁあッ!!」


 身体中の魔力を激らせ、俺は決心を固めた。


 ズタズタのブレザーを肩から破り捨て、掛けていた最後のセーフティを解いた。

 紅色の魔力の上から、金色の魔力が燃え上がる。


 未使用だった最後の変身を、今––––重ね掛けした。


「––––『身体・魔法能力極限化(ブルー・ペルセウス)』ッ!!!」


 大空に鐘の音が鳴り響いた。


 竜王級が竜王級たる所以。

 破壊の権化、最後の切り札、世界最強の変身を最大出力で発動する。


「やっと聞けたっ! お前の本音をッ!!」


 思わず笑みが溢れる。


 膨大過ぎる蒼色の魔力を右腕に集め、宙へ跳んだまま大きく振りかぶった。

 愛を、感謝を、己の高揚を込めて全力の一撃を放つ。


「滅国戦技––––!!」


 振り抜いた拳から、ブルーの魔力が大口を開けて放たれた。


「『滅竜王の撃鉄弾』ッッ!!!」


「ッ!!?」


 圧倒的な面制圧攻撃が、ミライをガードの上から地面に大きくめり込ませた。

 演習場の、実に3分の1に渡る面積が沈み込む。


 「お前の望み通り––––今から俺は、全力でやるぞッ!」


次回決着

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