第323話・アルスVSミライ
※注意、ちょい重めの回です。
「だっらああァアアッ!!!」
雷撃の舞踏会。
周りに広がる光景は、そう表現するに相応しいものだった。
回避運動をする俺の進路が、次から次へと電撃によって塞がれていく。
雷轟竜の力をフルパワーで使った、ミライの猛激だ。
「よっ」
「っ!?」
だが甘い。
縫い目をすり抜けるようにして、俺はミライの攻撃を『飛翔魔法』で掻い潜った。
「ほんっと、アンタはドンドン化け物みたいに強くなってくわね!」
「そりゃどう––––もッ!!!」
回転を加えながら、遂に俺はこの戦いで初となる攻撃を浴びせた。
だが俺の蹴りは、ミライの顔面に当たる直前で杖に防がれた。
「……やっぱ、今回本気ね」
「当たり前だろ、俺は今日––––」
右拳に、紫色の魔力を集約させる。
「愛おし過ぎるお前を、殺すつもりで倒すからな」
雷で覆われたガードの上から、俺は一気に拳を振り抜いた。
「滅軍戦技––––『追放の拳』!」
全ての魔法を無力化する拳が、ミライを木の葉のように吹っ飛ばした。
激しく地面を転がった彼女は、即座に姿勢制御。
まだ地面と逆さまの状態で技を放ってきた。
「『レイドスパーク・フルスロットル』!!」
さすがに良い根性をしている、そうだそれでいい!
俺はお前のもっと先を、お前と紡ぐ未来を見たいんだ。
だから––––
「超えてみろ、竜王を!!」
魔力全開。
地を蹴った俺は、縦回転しながら踵を大きく振り落とした。
「星凱亜––––『木星巨弾』!!」
ミライの放った雷撃を、俺はアッサリ無力化して見せた。
今自分には、2体の竜の力が宿っている。
こんな程度じゃ怯みもしないぞ。
さぁどうする、ミライ・ブラッドフォード!
「ッ……!」
杖を勢いよく振ったミライに、一際強い魔力が絡みつく。
宝石を連想するエメラルドグリーンの瞳が、激しく輝いた。
「滅軍戦技––––『天界雷轟』!!!」
来た。
これがミライの本気、俺の愛おし過ぎる彼女の全力。
膨大な雷の壁が、俺の正面に立ち塞がった。
眼前を覆い尽くすこの技が、今のミライの精一杯なんだろう。
既に引き出せる分は引き出したはず、けれど––––
「えっ……!?」
次の瞬間には、目を見開く彼女の顔が視界に映る。
滅軍戦技は確かに直撃した、俺の身体を焼き尽くさんばかりに襲った。
だが……。
「これが、今の俺とお前の実力差だ……」
神速で肉薄した俺は、拳をミライの溝落ちへめり込ませていた。
あまりにも呆気なく、あまりにも容赦なく彼女の身体を破壊する。
「ガッ……は!?」
吐き出された真っ赤な鮮血が、俺の制服をまだらに染める。
もう後には引けない、内臓を完全に潰した。
衝撃でミライの身体が宙に弾け飛んだ。
「これが––––俺と殺す気で戦うという意味だ」
すぐさま上空へ追いつき、無防備な彼女を見下ろした。
数瞬––––俺に躊躇が生じる、理性が、論理が、倫理が、俺の体を止めようと鎖のごとく絡みついた。
「ッ……!!! イグニール!!」
それら呪縛の全てを、俺はミライへの愛だけで振り払った。
常識だろうと倫理だろうと、天使だろうと怪盗だろうと––––今の俺たちの邪魔はさせないッ!
邪魔されてなるものかッ!!
「ソニックランス!!!」
右手に精製した焔の槍を、俺は一縷の狂いもなくミライへ向けて投げ飛ばした。
既に意識を半分失っていた彼女は、右肩を貫かれて地面に落下する。
砂埃が晴れた先には、口と肩から血を溢れさせるミライが倒れていた。
完全な半殺し状態。
俺にできるのはここまで……、後は祈るしかなかった。
「ミライ……」
しばらくして、倒れる彼女に変化が起きた。
一瞬期待したが望んだものとは違う、……変身が解除された。
もうミライに、戦う力は無い。
「クッソ……っ」
すぐさまポケットの『マジタミンB』を取り出そうとした時––––
「ぅ……ッ」
薄く開かれたミライの瞳が、ほんの僅かにグリーンへ光った。




