第319話・出所不明の謎すぎる民族
本日は終業式。
2学期の末尾たる今日は、年末年始の冬休みに向けて学園中が賑わっていた。
ちなみに問題だった高尚なテンプレ生徒会演説だが、こちらは案外上手く行った。
『王立魔法学園の生徒たるもの、節度を守って誰にも恥じない有意義な冬休みを送るように』
っと、我ながら舌がよく回ると思いながら喋ったものだ。
まぁ横で見ていたアリサは、あからさまにニヤつきながら、厳正で荘厳な振る舞いを見せるユリアを見ていた。
おそらく、今頃生徒会室ではユリアによる報復腹パンが行われているだろう。
まぁそっちは別に良いとして––––
「あんな書き方だが、実際どうなのかねぇ」
今朝渡されたあのメッセージの真意を確かめるべく、異世界研究部の部室へ向かっていた。
「さぁ、手がかりでも見つけたからわざわざ連絡してきたんじゃない?」
隣を歩いているのは、生徒会書記ミライ・ブラッドフォード。
日本人とミリシア人のハーフにして、俺の彼女だ。
茶髪のポニーテールを振りながら、こっちを見上げる。
「でも不思議よね〜。わたし、著名な冒険家の描いた地図やミリシア政府公式世界地図を何度見ても発見できなかったのに」
「俺もだよ、島嶼国家……っとか言われてもどこだよとしか」
「結構大きいらしいわよ、正確には知らないけど」
「なぁ……今さらなんだが」
「ん?」
不思議そうな顔をするミライに、俺は何気なくたずねた。
「お前ら“日本人”って、一体何者なんだ?」
「は? どゆこと」
「そのままの意味だよ、まぁお前はハーフだけど、何をどう考えたっておかしいだろ。これだけの数が世界中にいて、文化的にも技術的にも影響力があって、けど本国の場所が全く不明……絶対おかしい」
『連合王国同盟』によると、現在この世界に暮らしている日本人は200万人以上にも及ぶ。
いずれも多大な知識と技能、神から貰ったようなチート能力を持っており、一時は『日本人脅威論』まで叫ばれた。
そんな出所不明の民族が、全員陥っている現象がある。
「お母さんにも聞いたけど……、それまでどんな生活をしてたかよく思い出せないんだって。無理矢理聞いてもトラックにはねられたとしか言わないし」
この世界の日本人は、例外なく記憶に部分的な欠如が発生していた。
主にそれまで送っていた日常生活の大部分が消えており、しかもほぼ全員が何かしらの死亡体験じみたことを話す。
「前にお前から聞いたの何だっけ? 日本人が言ってる死亡体験の例」
「えーっと、確かトラックに撥ねられたが一番よく聞くわね。次に病死、ガンを発症してたとか。あと珍しいのだと米軍の爆撃機に空爆されて気づいたらこの国にいた……なんてのもあったわ」
「米軍? そんな軍隊この世界に存在しねーよ。爆撃機なんてもんも聞いたことない」
「ミリヲタのアルスが言うなら多分間違いないんだろうけど、でも存在しない軍隊に空爆されるってのもおかしいわよね」
「謎は深まるばかりだな……」
そうこう話している内に、異世界研究部の部室前に到着した。
「まっ、何かしらヒントが得られるだろ」
俺が部室の扉に手を掛けた瞬間––––
「ぶっほっ!?」
扉が思い切り開かれた。
否、正確には吹っ飛んできた異研部長のニーナが扉を突き破って俺に衝突したのだ。




