第309話・独占はダメだよ
俺とユリアは、カーペットの上に揃って正座させられていた。
2人並んで座る前には、とっても困惑した様子のアリサが同じく正座する。
「あの〜……、お2人共?」
「はぅ……」
「はい……」
空気が重い……ッ。
アリサの方もそれを感じてか、言葉の切り出し方にキレがなかった。
「いやぁね、悪気があって聞くわけじゃないんですけどね、その〜……なんて言うんでしょう。もしかして一線を––––」
言いかけたアリサに、俺は必死でかぶせる。
「超えてない!! まだ超えてないからッ!!」
一瞬怪訝そうな顔をするアリサ。
ユリアに至っては、もう煮るなり焼くなり好きにしてという顔だった。
「あの〜……まぁ、超えた超えてないはべつに良いとして。その〜ちょっと……ですね」
「うん」
「部屋がいつもと違う匂いが……ね? するわけですよ。ほら、わたし嗅覚敏感なので。2人がめっちゃイチャイチャしてたんだな〜っというのは……なんとなくわかるわけですよ」
こいつ嗅覚で状況を読めるのかよっ。
しかも、これ通常の元気っ娘スタイルじゃなくて敬語混じりの素のアリサだ。
「でっ、その〜……一応生徒会の人間として。言っておきたいことがですね、ありましてですね」
「はい……」
「アルスくんとユリはさ、これでも生徒会長と副会長じゃない? 今日終業式で“節度ある”とか“キッチリした冬休みを〜”とか演説する予定じゃん?」
「うん……」
追撃は止まらず、これまで受けたあらゆる攻撃を凌ぐラッシュで叩き込まれた。
「節度とかキッチリしたお休みとか……、全校生徒の前で言える?」
「言えないっす……」
「うん、だよねぇ。で––––ユリ」
「はい!」
ターゲットがユリアに移った。
背筋を無駄に伸ばし、ドギマギする様は普段の知的さと冷静さからはまるで考えられない。
「一応聞いとくんだけどさ……」
「なっ、なんでしょう」
「キスって、何回した……?」
「へっ?」
いきなり何聞いてくるんだこいつは。
だがふと見れば、アリサの頬が若干紅潮していた。
「えーっと、回数ですか?」
「うん、回数」
「普通のやつを3回と……、大人のやつを6回ほど」
「へー6回、……6回!? 大人のやつを!?」
「いっ、良いじゃないですか!! 恋人同士なんですから別にこれくらい普通でしょ!!」
もうユリアは完全に吹っ切れていて、顔を紅くしながら叫んでいた。
「フーン……6回か、その分だと魔力の移し渡しもしたでしょ。どうりでアルスくんからユリの魔力を感じるわけだ」
「やめてくださいその分析! そ、それに貴女だって、会長とお泊まりしたらブレーキなんてっ……絶対すぐ壊れますからね!!」
指差し、沸騰しきった脳で繰り出される言葉。
なんだよブレーキって、まぁお互いそんなのすぐぶっ壊れたのは事実だけども。
しばらく硬直したアリサだったが、差し出すように右手を前へ出してきた。
「アルスくん、ちょっと握ってみて」
「ん? あぁ……」
何気なく掴んだ瞬間、アリサの目の色が変わった。
比喩ではない、本当に瞳が髪と一緒に紫色へ染まったのだ。
血界魔装!? なぜ今––––
「んっ!?」
不意打ちということもあり、俺は逆らえずに引っ張られたままアリサの方へ倒れ込んだ。
そして、何か唇に柔らかい感触が走った……。
同時に––––
「んぐっ!?」
全身を雷で打たれたような感覚が襲った。
口を通して、激烈な力が体内へ無理矢理送られてくる。
やがて目の前にあったアリサの顔が離れると、いつも通りの銀髪青目な彼女がいた。
こいつ……何をッ!
「ユリだけ魔力の口移しなんてズルいしさ、わたしもちょっとだけさせて貰ったよ」
明るくはにかむアリサ。
気づけば、俺の体内魔力は半分以上回復していた。
おそらく、今俺からはユリアとアリサ両方の魔力が感じられるんだろう。
「……貴女、そういうところは結構狡猾ですよね。完全な騙し討ちじゃないですか」
「ぬっはっはっは! キスできれば良かろうなのだ。わたしだってアルスくんの恋人、独り占めはダメって話だよユリ」
満足気に笑ったアリサは、おもむろに自分のカバンから何かを取り出した。
指でつままれていたのは、乱雑にちぎったメモ用紙の欠片だった。
「本題が遅れちゃったけど、本当はユリにこれを渡しに来たんだ。まぁアルスくんがいるなら2人で読みなよ」
「なんだこれ」
「差出人は異世界研究部のニーナさん。昨夜わたしの部屋に来てね、副会長のユリが留守でいないから預かってくれって」
メモには、短く簡潔に––––しかしとんでもない事が書かれていた。
『【日本国】の場所を見つけたぞ』




