第315話・決断の時
ミライが初めてイリアに襲われ、保健室に送られた日。
俺はユリアと廊下を歩きながら、重々しく口開いたのを覚えている。
「今のままじゃ、あの2人は俺たちと一緒に居れない」
理由は明快だった。
「ブラッドフォード書記とアリサっちの現在の実力では、これから現れる敵にはとても対処できない。大怪盗イリアの出現で、その危惧が一層早まってしまいましたね……」
ユリアも若干沈んだような声を出す。
以前女神と化した俺の妹、レイ・イージスフォードにも言われた。
竜王級という体質を巡って、これからも敵は現れ続けるだろうと。
確かに俺は、それら全てを蹴散らせる自信がある。
しかし––––
「会長の手の届かない場所で襲われては、守れるものも守れません」
ユリアの言う通りだった。
大天使は言わずもがな、イリアという血界魔装を極めた敵まで現れ始めた。
しかも、そいつは素のノーマル状態で変身したミライを倒しかけている。
もし鎧クラスの血界魔装なんて発動されれば、衣止まりの2人では手も足も出ないだろう。
「あの2人とは……やっと恋人になれた。だからこそ、絶対に死んでほしくないし倒されて欲しくない。でも敵は容赦なんてしないし、必ず狙ってくる。俺とユリアだけじゃ限界があるだろう」
ミライとアリサは、常人と比べれば圧倒的に強い。
それは揺るぎない、確かな事実だ。
けれど俺に群がる敵は、もはや魔人級魔導士以上が標準と化してしまっている。
この生活を無事送るためにも、
「決断の時が……来たんだと思う」
「……っ」
浴場に、水滴の音が響いた。
脳裏にクソ単純で手っ取り早くて、最も安全な案が過ぎる。
それは、ミライとアリサを生徒会から解任し––––俺から極力遠ざけるというものだ。
戦いが終わるまで、関わらずに逃げてくれという消極的な案。
けれどそれは––––
「今会長が思った案は、もうとっくに破棄してそうです」
「……さすがに看破が早いな」
「当然です、第一……ブラッドフォード書記のアーティファクトが今回狙われているのに、本人を会長から遠ざけたんじゃ逆効果ですからね。会長はそんなクソださい案を採用なんて絶対しません」
背中から聞こえてくる声は、どこか確信があるようだった。
「それに––––信じているんでしょう?」
ユリアに嘘は通じない、
「2人が血界魔装の、“衣”の領域を必ず突破することを」
この世で何より嘘を嫌う彼女は騙せない。
俺は観念して、ユリアの小さな背中に体重を預けた。
「あぁ、改めて聞いてくれるか……? 俺の作戦」
「えぇ……聞きますよ、ぜひ話してください」
この計画は、かなりの確率で失敗するだろう。
けれどせっかく恋仲になったミライとアリサを遠くに置くなど、俺の信条が許さない。
「俺、ミライにコミフェスの時聞かれたんだ。ユリアとアリサはやっててミライとだけやってないことを……」
俺は拳をお湯から出し、固く握り締めた。
「今さっき––––やっとわかった、そしてこれこそが。現状を打開する起死回生の一手だ」




