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第307話・フォルティシアVSイリア

 

「せ、正義のスーパー大怪盗……? ネーミングセンスが終わってるとツッコんだら良いか悩むのう。今時それは流行らんじゃろうて」


 数歩ずつ床を移動するフォルティシアに、イリアは宙に浮かびながらケタケタと笑った。


「あっはは! それ、こないだ戦った茶髪の竜にも言われたのよねぇ。なんでみんなこのセンスをわかってくれないのかしら」


「普通の人間は、自分で自分をスーパーなど言わんわ。相当自信があるようじゃな」


「あったりまえじゃない! なんたってわたしは正義のスーパー……」


 イリアの視線が一瞬でも外れたのを、フォルティシアは見逃さなかった。

 瓦礫を蹴飛ばし、埋もれていた自作魔導具『ぶっとび君3号』へそのまま足を乗せた。


「なら、どちらがスーパーか見極めようぞ!!」


「ちょっ!?」


『ぶっとび君3号』が超出力で起動し、スケートボードのような先端部をイリアの腹部へ突き刺した。


「おぐっ!?」


「そりゃあッ!!」


 そのまま空中で吹っ飛ばし、高速でさらに急接近。

 イリアの首目掛けてハルバードを振った。


 ––––ギィンッ––––!!!


 鳴ったのは激しい金属音。

 見れば、涼しげな表情のイリアが対戦車ライフルを盾にして攻撃を防いでいた。


「さすが自称大賢者、これは一本取られたわ」


「ちょっとくらい効いてる素振りを見せたらどうじゃ……!」


「うん、すっごく痛かったから一応効いてるよ。だから––––」


 フリーだった右手の対戦車ライフルが、フォルティシア目掛けて発砲された。


「全力で奪うことにするよ」


「チッ……!」


 間一髪で避けたフォルティシアは、そのままイリアを弾いた。

 慣性に任せて落ちていったイリアは、車の多い道路上空で飛翔を再開。


 フォルティシアもそれを追いかける形で、2人は温泉大都市ファンタジアの賑やかな中心部を縫うように駆けた。


「なぜ今さらになって宝具を狙うッ!! おぬしは何者じゃ!!」


 振り下ろされたハルバードの斬撃を、イリアは軽々とあしらう。

 また、フォルティシアの方も撃ち出されるライフル弾をアッサリ弾いていた。


「さっき言ったでしょ、わたしは正義のスーパー大怪盗。それ以上でもそれ以下でもない、今までは宝具なんて別に誰が持ってても良かったけど––––」


 両者の激突は復興途中の街を何度も揺らしながら、1等河川の上空へ辿り着く。

 河が何度も波を引き起こし、航行中の船をひっくり返しかけた。


「事情が変わったの、だから奪いにきたってわけよ」


「話し合いは最初からせぬと言うわけか」


「じゃあ事情を話したら宝具手放してくれるの? 絶対手放さないでしょ? そんなわかりきったことに割く時間はもうないのよ」


 イリアの放つ弾丸は、戦車すら貫く対戦車用だ。

 しかし威力を代償に連射速度は低く、接近戦に持ち込めばフォルティシアの方が優勢だった。


「気に入らんな! そのような理屈!!」


『ぶっとび君3号』の加速が大きく増し、銃撃の合間を縫ってイリアの背後を取る。


「しまっ––––!!」


「はぁあッ!!」


 フォルティシアが放った渾身の一撃は、ガードに使用された対戦車ライフル2(ちょう)を銃身ごとへし折った。

 それでも殺しきれなかったパワーは、イリアを街から離れた山岳部まで吹っ飛ばした。


 隕石を彷彿とさせる激突で、木々が大きく揺れる。

 近くまで接近したフォルティシアは、手に魔力を集めた。


「いったた……っ、今のは効いたわね」


 えぐれた地面の中央で、イリアがマントに付いた土を払っている。


「でもまだまだ! こっからが本番––––」


 まだ言い終わらぬ内に、イリアを包む周囲の景色が歪んだ。

 ねじ曲がった空間が、彼女の動きを急激に制約する。


「いいや、もう終わりじゃよ」


「なっ、何を……!」


「おぬしを完璧に捉えた。もうそこからは出られん」


 それは、かつてアルスに対しても使用した空間拘束魔法だった。

 網のように待ち伏せて引っかかった目標を動けなくし、強制的に無防備状態へ移行させる。


魔法能力強化(ペルセウス)』に変身したアルスでも、脱出は困難な魔法だった。


「正義だかスーパーだか知らんが……」


 フォルティシアの瞳が金色に輝く。

『インフィニティー・ハルバード』に全ての神力を集中させ、上空から狙いを定める。


「これでお終いじゃ!! 消し飛べッ!!」


 今の自分が撃てる全身全霊の一撃を、フォルティシアはイリア目掛けて振り放った。


「『アルファ・ブラスター』!!!」


 次元ごと貫く最大チャージの魔法が、未だ拘束されるイリアを直撃した。


「ッ!!?」


 猛烈な大爆発が発生し、山の木々が放射状に凪いだ。

 確実に手応えはあった、これをまともに食らって無事なはずはない。


 少なくとも、フォルティシアの中に勝利の確信が浮かび上がった瞬間だった––––


「えっ……」


 上空の雲を貫いて、赤色の雷が煙の中心へ落ちた。

 目を潰さんばかりの閃光が辺りを覆い、夜空を真昼のように照らす。


「なっ、なんじゃ!? ––––わっ!」


 次いで襲ってきた爆風は、フォルティシアを危うく空から落下させかけた。


「……大賢者ルナ・フォルティシア」


「ッ!!」


 その言葉は、山脈のような重みを持っていた。

 思わず震えたフォルティシアの視線の先で、煙がゆっくり消える。


「あなたの強さに敬意を表して、わたしも手札を全て切ります。なので––––」


 現れたイリアの姿は、一言で表すなら“激変”だった。

 身体を噴火にも見える魔力が覆い、色白の肌には全身に渡ってマグマ色の幾何学紋様が浮かんでいた。


 なびく髪と輝く瞳は、燃えるような赤色へ染まっている。


「宝具は必ず頂きますよ」


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