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第305話・駄妹と噂

 

 ––––王城謁見まであと3日。


 コミックフェスタという大イベントを無事乗り越えたわけだが、もう後ちょっと陽が沈んだら王国最高権力者と会う。

 言わずもだが、王国第一王女となるとその権威は凄まじいものだ。


 本来、王立魔法学園の生徒とはいえ顔を見るのすら不可能の存在。

 やっべ……、今さらながら緊張してきた。


「どしたの兄さん? えづきそうな顔して」


 声を掛けてきたのは、もはや当然のように俺のベッドで寝っ転がるカレンだった。

 もちろん、毎度のごとく羽織っているのはシャツ1枚……下はパンツだけである。


「……」


 あのさぁ、それやられると目のやり場に超困るんですけどカレンさん?

 自覚あります? その生足は男子に毒だよ?


「いや、緊張でちょっとクラッとしただけ」


 適当に誤魔化す。


「大天使とかいうヤッバイ連中と戦ってるくせに、竜王級の兄さんが今さら人間相手にビビってどうすんのよ」


「うっせ、ってかお前……反抗期だったんじゃないのかよ? 連日俺の部屋に入り浸ってさぁ」


「反抗期だからに決まってるじゃない、こうして兄さんのベッドにわたしの髪と匂いをたっぷりつけて、翌日アリサ姉さんに疑われるようにしてんのよ」


「ほんっとクズだなお前」


「兄さんの困ってる顔がわたしの性癖」


 やっぱこの妹ダメだわ……、もう少ししたらつまみ出そう。

 でもやはり思うのは。


「お前……最初よりかはずいぶん口聞いてくれるようになったよな、半年前なんて口を開けば「死ね」「ウザい」「消えろ」の三拍子だったじゃねえか」


 自分でも無意識だったのだろう、少し固まったカレンは寝返りを打って俺に背を向ける。


「べっつに〜? 方針転換しただけよ、現に今も嫌がらせの真っ最中だし」


「ずいぶん雑な照れ隠しだな」


「うっさい! それより兄さん!!」


 バッと起き上がったカレンが、真っ赤な顔を向けてくる。


「みんなとの付き合いはどうなのよ……」


「生徒会のか?」


「うん、一応この国は一夫多妻制……複婚が認められてるから、別に複数人と付き合うことに問題はないんだけど––––」


 カレンの目が右往左往する。


「さ、3人も恋人作って……どうやってそれぞれに時間作ってんの?」


「別に、学園じゃユリアは俺に隙見ていつも甘えてくるし。アリサはシフトの日に店行って特製オムライス作ってもらって、ミライとは家に泊まったりしてる」


「うわ〜……ハーレム〜、なんかムカついてきた殴りたい」


「怖いな、ってかお前はいないの? 彼氏」


「いたらとっくに自慢してるわよ!! この無自覚兄貴!! ボンクラ竜王級!!」


 めっちゃ怒られた……。

 ヤベェ、カレンの髪に焔がほとばしってる。


「は、話変わるけどさ。お前は会ったことないのか? 王国第一王女様に」


 話題転換。

 カレンより遥かに雑だが、一応効果はあったようで燃え上がろうとしていた蒼焔が髪から消える。


「無いわよ、でも噂は結構耳にする」


「噂……?」


 意味深な言葉に、俺はつい聞き返した。


「そっ、なんか裏では色々やってるみたいよ。聞いた話では何かの収集をしていて、集めた物を王城の宝物庫に保管しているとか」


 何かのコレクターだろうか? 第一王女ともなるとそんな些細なことでも噂になるんだな。


「次に実力、知ってる? 王家の血を引く人間は引き出せる能力が常人を遥かに超えるの。血統でバフ掛かるとかチートよね〜」


 っとなると、第一王女様は実は相当強いのか?

 わからんが、今の俺たちには関係ない話だ。

 気づけば夜の0時を回っている……。


「よいしょっと」


「なっ、ちょっ!?」


 ベッドに座っていたカレンを持ち上げると、俺は部屋の前まで持って行った。


「子供は寝る時間だ、夜更かししてたら身長伸びねえぞ」


「アルス兄さんだって別に成人してないじゃん!! もっとベッドにいさせろぉッ! って、力つよぉっ」


「お前じゃ俺には勝てん、はいおやすみ」


 大陸一の冒険者にして、騒がしい妹を俺は部屋の外に追い出した。

 しばらく扉の外で文句を言っていたが、やがて諦めたようで気配が消える。


「王女の噂ねぇ……」


 明かりを消した俺は、カレンの匂いがたっぷり付いたベッドに寝っ転がった。


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