第298話・雷轟竜の瞬き
眼前に広がるのは、激しすぎる閃光と火花だ。
轟くアサルトライフルの銃声が追いかけるのは、雷と同じ速度で駆け抜ける少女。
「何をやっている!! 相手は女のガキ! それも1人だぞ!!」
空を貫く曳光弾が、柱やブースを砕いて回るも命中弾は皆無。
ミライは縦横無尽に会場を駆け回り、銃弾をかわし続けていた。
「だぁあぁッ!!」
また1人、フルオートで乱射していた敵を蹴り飛ばす。
ミライの足は細く華奢だが、まばたきより早く打ち出される蹴りは銃弾にも負けないパワーを誇っていた。
「おい魔導士部隊! ヤツの動きを封じろ! そのためのお前らだろうが!!」
「はっ、はい!!」
アサルトライフルを連射しながら、敵はフェイカー魔導士3人を守るように囲んだ。
正面に降り立ったミライへ向け、魔法陣が向けられる。
「クライアントの要望はあの杖だ!! 動きを封じればそれでいい!!」
床を貫いて伸びていたツルが、一斉にミライへ向かった。
無論この程度で止まるわけがない、超高速でかわしながら連中との距離を一気に詰めていく。
俺の予想……と言うか、俺がもし敵なら––––
「ッ!?」
アサルトライフルの弾幕に阻まれ、ミライは仕方なく魔法杖の先端でツルを切る。
案の定というか、これで終わるわけがない。
切断された断面から、大量の粉塵が飛び散った。
やはり神経性の毒……半年前、ミライはこれによってボコボコにやられた。
だが––––
「どうだ雷轟竜! これで動けねえだ––––」
爆発のような雷撃が走り回った。
閃光と爆風が吹き荒れ、1秒も掛からずに粉塵を消し飛ばしてしまう。
慌ててライフルを構えるも遅い、ミライは一塊になっている敵の空中から杖を振りかぶっていた。
「半年前ならいざ知らず、こんな同じ手!」
爆裂が会場を揺らした。
「竜王級の彼女に通じるかァッ!!」
非常に頼もしい言葉と共に、ミライは雷撃を敵集団へ叩き込んだ。
その威力は凄まじく、ルールブレイカー戦でさらにパワーアップしているのが一目でわかった。
「やるじゃん」
思わず笑みが溢れた。
スタリと着地したミライは、1人残った男の胸ぐらを掴んで立ち上がらせる。
「アルス〜、終わったー」
「おう、ご苦労さん。さすがだな……ちゃんと1人残してくれたのか」
「当然でしょ、じゃなきゃクライアントのこと聞き出せないじゃない」
フェイカーが砕けて無能に戻った男は、俺を見て一気に脱力した。
「あ、アルス……? まさかお前がッ」
「ども、こんにちは。竜王級アルス・イージスフォードです」
「なっ、なんでそんな格好を……それに、なぜ今の戦闘に参戦しなかった!! テメェの彼女が標的なんだぞ、腰でも抜けたか!!」
寝ぼけたことを抜かすテロリストへ、俺はニヒルと笑う。
「格好についてはノーコメントだが……お前らみたいなフェイカー持っただけの無能を、こちとら飽きるほど倒してきてる。作戦がガバガバなんだよ」
俺は人差し指を屋上へ向けた。
「てめえらが俺たちを消耗なり怪我でも負わせて、今“上”にいるヤツがチャンスとばかりに襲ってくる手筈だったんだろ?」
黙りこくる男の代わりに、ポケットに入ったミニタブのノイマンが答えた。
『目標に動きはありません、まだ戦ってると思ってるのでしょう』
「そうか、ミライ」
「ん?」
「こいつらを縛って警務隊に突き出す準備しといてくれ、証拠はノイマンが用意してくれる」
「了解、アルス……」
男が放り投げられる。
駆け寄ってきたミライが、変身したまま俺に抱きついた。
スパークの熱さと、良い匂いが肌に触れる。
「気をつけて、このために体力温存してたんでしょう?」
「さすがに察しがいいな、まぁ待ってろ」
俺の全身を、先ほどのミライを超える出力で魔力が覆った。
「すぐに終わらせて、新刊売り切ろうぜ」




