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第288話・ミニットマンとアグニ

 

「ララランラーン、ララランラーン♪」


 カラフルなお菓子や風船、飾りによってデコレーションされた玉座の間で、1人の少女が歌っていた。

 ドレス姿の彼女は––––名をミニットマン。


 天界に名を轟かせる、強大な大天使の一角だ。


「どんな『パーティー』にしようかしら、どんな服で行こうかしら、こうして考えている瞬間が一番楽しいわ。ねぇアグニ?」


 会話を振られたのは、高身長の男。

 全身を黒のタキシードで覆い、背中からは真っ白な翼を生やした異形の執事然とした存在。


 こちらもミニットマンと同じく、天界の大天使だ。


「そうですねぇ、何事も準備が一番盛り上がると……昔、東風さんから聞きました」


 出てきた名前にムッと表情を曇らせたミニットマンは、蒼髪を不機嫌そうに揺らす。


「アンタ、まさかあんなメイド喫茶なんてやるイカれた天使にリスペクトを抱いてるの?」


「ミニットマン様も、大概ゴスロリ厨二チックな格好ですゆえ……同じ天使同士、そろそろ仲良くしてはどうでしょうか?」


「じょうっだんじゃないわよ!! 天使同士が馴れ合うなんてあり得ない、世界というパイを奪い合うライバルなんだから」


「その理論ですと……、ワタクシとお嬢様の関係が破綻してしまいますよ?」


「アンタはいいのよアグニ、わたしが見た限り“野心”っていうものがそもそも無いし。美味しい紅茶を淹れてくれる執事を無下になんてできないわ」


 矛盾と破綻が両立したような理論を繰り出すミニットマンは、玉座から身を乗り出す。


「それで? ”宝具集め”はいつ始めるの?」


「既に実行部隊を金でかき集めはしました、いつでも始められますよ?」


「じゃあ今っ! 今から開始!! サッサと古代帝国のアーティファクトも、女神アルナの神器も全部回収しちゃいましょう!」


「ずいぶん性急ですねぇ、そんなに慌てなくても宝具は逃げませんよ。そこまで早く『パーティー』がしたいのですか? それとも……何か焦りでも?」


 アグニはうやうやしい態度を取りつつも、眼前の主へ問う。


「うーん……まぁねぇ、この情報社会。色んなことが耳に入るわけよ」


「例えば?」


 ミニットマンは飴玉を口へ放り込みつつ答えた。

 もっとも、味わうことなくすぐに噛み砕いてしまったが。


「アーティファクトを回収してまわる、自称スーパー大怪盗っていう人間がいるらしいの。だっさいわよねぇ、自分でスーパーとか言っちゃうなんて!」


「それは面白い人間ですねぇ、自信に溢れた自尊心を打ち砕きたくなりますな。でもそれだけじゃないのでは?」


 鋭い執事は好きだと言わんばかりに笑みを浮かべたミニットマンは、背中の翼をバッと広げた。


「前にも言ったけど、パーティーにはゲストが大事なのよ! このわたし––––確率の大天使ミニットマン様が主催する最高の催し。ゲストも最高じゃなきゃ!」


「竜王級……ですか」


「えぇ! 彼はもちろんメインゲストに迎える予定よ! そしてかの王立魔法学園生徒会、あの中にも2人……いたわよね? 竜王級と並ぶ賢竜族の末裔と、天才ドクトリオンを破った秀才––––“神と古代の宝具使い”が」


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