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第286話・ラインメタル大佐からの贈り物

 

「ただいまー」


 学園を終えた俺は、もはや住み慣れた喫茶店ナイトテーブルへと帰宅した。

 王城からの手紙に驚いた俺たちは、結局あの後もずっと浮き足だっていた。


「何を着て行けばいい!? 正装は?」、「手土産とかいるんじゃないかな?」「これはつまり謁見ということでしょうか……」

 などと、各々ひたすらきょどりまくった。


 それはミライも同様で、最初こそどこか落ち込んだ様子だった彼女も、王城招待というビッグイベントを前に同じリアクションを取っていた。


 とりあえず言えるのは、ウチの生徒会は全員がそれなりの陰キャで構成されている。

 王城という陽キャどころか天上の存在、神の世界への招待など微塵も想定していない。


 全く……。


「困ったもんだ、と……そんな風に顔へ出てるね、イージスフォードくん?」


「え?」


 顔を向けると、カウンター席に男が座っていた。

 分厚い黒の軍服とコートを着た、金髪碧眼の軍人––––


「ラインメタル大佐、ここにいるなんて珍しいですね……」


「あぁ、たまの休日だしお酒でも飲もうと思ってね」


 見れば、テーブルには赤ワインと牛肉のステーキが置かれていた。

 俺も酒の味がわかれば美味そうとでも感じるんだろうが、あいにくと酒はあまり飲まない。


 そんな大佐の前で立っていたのは、この店の主を担う大英雄––––グラン・ポーツマスさんことマスターだ。

 今は大佐の接客中ってところか。


「おかえりアルスくん、外の野次馬は大丈夫だったかい?」


「えぇまぁ、屋根伝いに移動してバレないようにはしましたよ。しかし朝からずっとなんて……彼ら暇なんですかね?」


「暇なんだろう」


 ワインを口に含んだ大佐だった。


「することの無くなった人間など、他人の功績に自己投影するだけの承認欲求マシーンだ。あわよくば竜王級のイージスフォードくんと交友関係を持って、自分の格を上げようと企む連中が血眼でうろついてるんだろうさ」


 ずいぶんと辛口なご意見である。


「赤の他人ですよ? そんなこと普通しますかね?」


「世の暇人は数種類いるんだよ。他人を貶めることにご執心なクソッタレと、今外にいるような自分を少しでも他人の名誉で高い地位に上げたいクソッタレだ」


「かなり極端な発想な気がしないでもないですけど……」


「または……君の写真をあわよくばこっそり撮って、ユグドラシルネットに上げて『グッド』稼ぎにでもするだろうさ。有名人にたかる人間など大体こんなもんだ」


 最後の言葉は普通にありそうで怖いな。

 大佐も本国じゃ有名人だろうし、きっと今言ったことはある意味本人の体験談なのだろう。


 カバンを肩にかけ直して、店の奥に進む。


「で、大佐? 俺が帰ってくるまでずっと待ってたんですよね?」


「ほぅ、どうしてそう思ったのかね?」


 再びワイングラスを呷る大佐。

 赤色の綺麗なお酒が、瞬く間に無くなる。


「お酒、既に結構飲んでるじゃないですか」


「顔を赤くしたつもりはないぞ? 今飲んでるこれが一杯目じゃない保証がどこにある」


「いえ––––様式や順番を大切にする大佐が、前菜とかをすっ飛ばしていきなり赤ワイン片手にステーキ食べてるとは到底思えなかったので。実際はしばらく前から来ていて、俺が帰ってくるまでまだ時間があったから、マスターにお酒に合った料理コースを注文して……今はゆっくり食べ終わった前菜とかの後。違いますか?」


「ふぅむ」


 ステーキを頬張り、ナプキンで口を拭いたラインメタル大佐は隣の席に置かれたケースを手に取る。


「正解だ、グランくんが新メニューとしてお酒に合った料理コースを出してくれてね。今がちょうどボトル3本目、相変わらずの観察眼だ……恐れ入るよ」


 ケースから取り出されたのは、長方形の黒い箱だった。

 いや、片面は液晶画面になっている……。

 しかも通常の魔導タブレットと違い、片手で持てる大きさだ。


「今日はこれを君に渡したくて来た」


「なんですか? それ」


 大佐が側面のボタンを押すと、画面が点灯してユグドラシルのロゴが浮かんだ。

 程なくして、初期設定画面が映る。


「最新型の魔導タブレットだ、名前は『ミニタブ』手のひらサイズでありながら能力はハイスペ機種と同等。片手で操作できるのが売りだとユグドラシルの社員は自慢気に言っていたよ」


「そんなモデルの発売……聞いてませんけど」


「もちろんだとも、なんたってこれは限定生産品だからね。少数生産したこれらを大使館でたまたま貰ったんだが、生憎と私は自分で組んだ自作タブレット以外使わない主義でね」


「つまり……?」


「ハッキリ言って宝の持ち腐れなんだ、そこで君にあげようと思ってね。ルールブレイカーを倒したイージスフォードくんへの、まぁささやかなプレゼントだ」


 伸ばされた手から、俺はミニタブを受け取る。


「頂けるのなら、遠慮なく貰います。ちょうど学園に持ち込むタブレットが欲しかったんで」


 やっぱ俺って貧乏性だな……と、心中で呟く。


「なら良かった、ポケットにでも入れて持ち歩くと良い。最新チャットアプリの“ロイン“も入ってるよ」


 笑顔で手を振る大佐。


 ミニタブを貰った俺は、早速自室に戻って初期設定を終わらせた。

 正直……かなり嬉しい、このサイズでフルスペックのタブレットなんて、手に入れようと思って手に入るものじゃない。


 人脈万歳だ。


「さて、じゃあ早速ミニミさんの配信でも見て……」


 俺が動画配信サービスにアクセスしようした瞬間、画面上からメッセージポップが降りて来た。

 書いてあった文章は––––


『やっと見つけましたよ、竜王級』


レイアウトを青色からなろう標準の白色に変えました。

特に見にくいなどの声が無い場合は、このレイアウトを使います。

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