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第285話・ミライの決意

 

 ––––王立魔法学園 保健室。


 ボロボロになった制服を脇へ置き、無傷だった体操服に身を包んだミライ・ブラッドフォードは、ベッドの上で布団に(くる)まり表情を歪めていた。


「ッ……」


 一度寝返りを打つたび、ギシリとベッドが音を立てて揺れた。

 まるで、今彼女の中を渦巻く心のように……。


「何が正義のスーパー大怪盗よッ」


 憤懣(ふんまん)やるかたないと言った声で呟く。

 実際、ミライの感情は激しく波打っていた。


 それもそうだろう……。

 大天使率いる闇ギルド、ルールブレイカーを見事打ち倒し、遥かに格上だったドクトリオンにもアリサと協力して勝った。


 さらには念願だったアルスへの告白を成功させたこともあって、彼女自身……これ以上を求めなくても良いやとすら思っていた。


 そこに来て、今朝の“敗北”である。

 もし事態を察知したユリアが来てくれなかったら、自分はアルスから貰った杖をあっけなく奪われていただろう。


「クッソ……ッ」


 シーツを破けんばかりに掴む。

 血界魔装を習得し、あらゆる敵を倒してきたミライは結果から言うと慢心していた。


 だが振り返ってみればどうだ?

 当時ランキング3位だった風紀委員長マチルダに勝てたのは、アリサと2人掛かりで挑んだからだ。


 ドクトリオンにおいても然り、当然のようにアリサと協力して勝利した。

 じゃあ自分1人で倒した敵は何人だろうか……。


 夏のコミックフェスタからルールブレイカーとの決戦まで、相見えた全ての敵を数えて……途中でやめた。

 いない、いないのだ……。


 自分1人で勝てた戦いが、まるで見当たらなかったのだ。


 あまりにも情けなくなったミライの瞳が、激情でエメラルドグリーンに染まる。

 周囲を静電気がパチパチと走った。


「わたしは弱い……ッ、アルスに近づいたつもりになって完全に浮かれてた。自分1人で勝てたことなんて無いのに!」


 脳裏へ……今朝戦った怪盗の顔がハッキリ浮かぶ。

 ヤツは終始余裕だった、汗1つすらかいてなかった。

 とりわけ、杖を弾かれこちらの変身が解除された瞬間の表情は忘れられない。


 まだ戦意はあったのに、ヤツはすぐさまトドメを刺してきた。

 まるで––––『変身しても勝てなかったのに、これ以上やるつもり?』とでも言われた気持ちだった。


「……ッ!!」


 ふざけんなっ……、ふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなッ。


「あー!! もうッ!!!」


 ミライ以外誰もいない保健室を、激しい雷流が走った。

 涙目で起き上がった彼女はスパークに覆われ、瞳も淡く輝いている。


「絶対このままじゃ終わらないッ!! アルスの……アイツの彼女として、情けない現在(イマ)を––––最強の未来(ミライ)に変えてやるッ!!」


 わたしは天才じゃなければ、竜王級でも無い。

 けど苦悩した数ならユリアより多い、苦戦した数ならアリサより多いッ!


 だからこそ進める道があるのだッ。

 真正面から挑んでやる、【雷轟竜の衣】を超えるさらに先へ––––


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