第282話・襲撃
「やっばーい!!!」
アルスが野次馬に囲まれて家から出られないのと同じ頃、生徒会書記ミライ・ブラッドフォードは大慌てで白色の制服に着替えていた。
いつもはもう少し早く出ているのだが、またぞろ悪い癖で深夜まで魔導タブレットを使って延々ネットサーフィン。
結局朝の4時半に寝て、8時に起きるというバカをやらかしていた。
「ちょっとミライ! 朝ご飯は!?」
キッチンから母親の声が聞こえてくるも、今の彼女に悠長にご飯を食べる時間などない。
つまずきながらも「今日は大丈夫!!」とだけ返し、通路を駆けていく。
大急ぎで靴を履いて、玄関から飛び出た。
そういえばアルスが入学したての頃、今回と同じことをやって遅刻しそうになったけ……。
あの時からもう……彼とはさらに一歩進んだ関係となった。
今から会うと思うと、ニヤニヤが止まらない。
ちなみに 遅刻騒動以来しばらく夜にはタブレットを真面目に手離していた彼女だが、やはりネットの誘惑には勝てず。
少し、また少しと手が伸びていき……後は言うまでも無い。
「今からだとバスはもう行っちゃったかな……、だとしたら最悪全力疾走じゃん」
ミライの家は、生徒会役員の中では一番学校から遠い。
寮暮らしのユリアやアリサと違い、公共交通機関を使用して通学していた。
学園ランキング10位内の学生は、学費と合わせて通学費も学園が支払ってくれる。
現在ランキング4位の彼女は、当然定期代も無料。
なので、学園最寄りのバス停までバス通学していた。
「あと2分でバス停に着けば、最終便にまだ間に合う……! 屋根を跳んでいくのは避けたいし、走るしかないわね」
車道の横たわる大通りに出る。
通学通勤ラッシュで賑わう道を、ダッシュしようと一歩踏み出した瞬間だった。
「えっ!?」
空が緑色のドームで覆われた。
同時に、それまで騒がしかった王都の賑わいもピタリと止む。
こんな異次元レベルのことをできるのは、大陸中探しても1人しかいない。
ミライは、すぐに足を止めた。
「朝からこんな『魔法結界』張るなんて、どうしたのよアルスったら……まぁこれなら屋根伝いに跳んでも警務隊にバレないし、好都合か」
ポジティブ思考で気持ちを切り替えたミライは、もったいないが魔力を使っての登校にシフトした。
いざ学校方面へとジャンプしようとした彼女へ––––
「ッ!?」
空から爆裂魔法が降り注いだ。
大通りが火の海に染まり、爆心地の家屋が薙ぎ倒される。
黒煙から飛び出したミライは、すぐさま無事だった教会の屋根へ着地。
魔法の発射点を見上げた。
「ちょっと勘弁してよね……、こっちは寝不足&遅刻間近のピンチ学生なんですけど」
空の上で浮遊していたのは、1人の少女だった。
これまた奇怪だったのは、白色のマントに長い薄金髪へ乗ったマジックハット。
同じく白が基調のプリーツスカートを中心とした、いかにもどこかの漫画に出てきそうな怪盗姿をしていた。
「ふっふふ、ようやく見つけたよ。“アーティファクター”さん」
「はぁ? 誰よアンタ……」
素っ頓狂な声を上げるミライの前で、少女はマントを翻した。
「わたしは“正義のスーパー大怪盗”! ミライ・ブラッドフォードさん。あなたが持つ古代帝国のアーティファクト、華麗に頂戴しに来たわよ」
正義のスーパー大怪盗と名乗った少女は、ニッと幼げな顔で微笑んだ。
理解できたのは……その自称スーパー大怪盗が、ミライでさえまだ習得できていない『飛翔魔法』をアッサリ使っていたことだった。




