第281話・いつも通りの日常?
闇ギルド・ルールブレイカーとの戦いを終えた俺たちは、いつもの日常へ戻った。
なんてことない、生徒会室へ行けばまたいつも通り仕事が溜まっている。
今日も生徒会長として、朝食を終えて家を出ようとした俺は––––
「アルス兄さんこっちはダメッ!! 正面玄関はマジやばいことになってる! 今出たら学校どころじゃないわよ!?」
絶賛大ピンチに陥っていた。
目の前で通せんぼするカレンの顔は真剣そのもの、後ろで見ていたマスターこと、大英雄グラン・ポーツマスさんも頷く。
「カレンの言う通りだ、多分……今出たら相当やばいだろうね」
マスターがテーブルに並べたのは、今朝の各社新聞雑誌。
なんと内容は、全て同一だった。
『伝説の竜王級が王国の危機を救う!!!』
『王立魔法学園生徒会、大手柄!! 王城より招待間近か!?』
『大闇ギルド敗れるッ!! 救国の竜王アルス・イージスフォード!!』
我ながらまぁそうなるよな……と胸中で一言。
新聞には、どこから撮ったのか俺が大天使と戦う写真が一面を飾っていた。
今外へ出れないのも、噂の竜王級がこの辺りに住んでいると誰かがリークしたからに他ならない。
窓からソッと覗くと、普段は人通りなんて閑散も良いところなくせに、中央通りを彷彿とさせる人の数……。
これで外に出たら、揉みくちゃにされて一貫の終わりだろう。
「全く困ったものよね、一体誰がリークしたんだか……アルス兄さんだって暇じゃないのにね」
冒険者らしい装いのカレンが、わざとらしく椅子に座った。
「珍しいな、お前が俺に同情するなんて」
「こう見えて冒険者ランキング1位の有名人だからね、バズった時の厄介さは身をもって知ってるわけよ」
「フーン、例えば?」
「野次馬はまだ良い方よ、騒ぐだけで無害だもの。問題はガチの狂信者や嫉妬犯。アイツらすれ違いざまにスカートをナイフで切ったり、自撮り写真を押し渡すとか平気でするわよ?」
「されたのか……?」
「目立ってるとね〜……色んなところで恨みも買うのよ、わたしは当然全て返り討ちにしてるけどね」
さすが表舞台のスター。
こういうシチュエーションも二度や三度ではないらしく、さすがに落ち着いていた。
「マスターは良いんすか? 俺がこの店で働いてるって知れたら、売り上げ多分伸びますよ?」
新聞紙をまとめていたマスターは、カレン同様冷静だった。
「確かに客足は増えるだろうが……厄介な客も当然増えるだろうね、僕としては今のひっそりした経営で満足しているから、アルスくんを犠牲にしてまでこれ以上は望まないよ」
さすがは大人、言うことが達観していらっしゃる。
ならこれで躊躇う必要はなし、後は最終確認だ。
「マスター、カレン。この後買い物とかする予定は?」
「ん? 別にないけど」
「僕も無いね、裏で仕事が溜まっている」
「了解、そんじゃ––––」
俺の全身を紅色の魔力が一気に覆った。
「外のみなさんには、ちょいと固まってもらいますか」
右腕を上げ、パチンと指を鳴らす。
「『魔法結界』」
相変わらず手加減ができていない出力で発動したそれは、ドーム状に王都全体をスッポリと包み込んでしまった。
外の時間が一瞬で止まる……。
これで一部の実力者以外、誰も身動きはできないだろう。
当然、野次馬連中はもはや俺の登校を一切邪魔できない。
「そんじゃ、行ってきます」
鞄を持って外への扉を開ける。
「マジか……」と口を開けるカレンと、いつも通りほがらかに手を振るマスターを背に、俺は学園へ向かった。
最も––––この魔法結界が“ある事件”の一旦を担ってしまったと知ったのは、俺が生徒会室に着いてからだ。




