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第28話・傲慢なお前は、自分が観察されてるなんて思わないだろうな

 

 警務隊が押し寄せ、混乱するコミックフェスタの会場を空中から眺める男がいた。


「ここまでか……、社会是正への偉大なる1歩とか言ってたわりに、思想家さんたちは結局なにもできなかったらしい」


 新緑色の長髪をなびかせ、身長も190センチはあるだろうその男は、魔導タブレットのカメラを向けながら幻滅したように続ける。


「せっかく我々が良心的価格で能力を売ってやったのに、まるで使いこなせていないな。やはり贋作ではこの程度か……」


 男の声に、タブレットから反応して声が返ってくる。

 無機質で抑揚がない声だ。


『いえ、会場に反則的イレギュラーがいたのならば……この結果も然るべきでしょう。スカッド様』


「反則的イレギュラー? タブレットに宿った思念体に過ぎないきみの方がよっぽどイレギュラーだと思うが?」


『私のことはともかく、あの場に“竜王級エンチャンター“がいたのはイレギュラーだと考えます。こちらの試算した計画成功率––––98%という数字を一気にゼロまで追いやった化け物です』


 カメラを会場のあちこちへ向け、記録するスカッド。


「いずれにせよ、我々のマーケットに打撃とチャンスが両方訪れた。ひとまずリスク管理を徹底し市場を隠蔽、そして……竜王級魔導士の能力を手に入れる算段を立てる」


『もし手に入れた場合、いくらで取り引きなさるおつもりで?』


「数百年に一度の希少品だ、最低でも400億はくだらない––––いや、たとえ1000億でも買いたいと言うヤツはこの世に何人でもいる」


 タブレットをカバンにしまうと、スカッドは背中の羽根に魔力を纏わせた。


「いずれにせよ、我らが闇マーケットは女神アルナによって繁栄のチャンスを与えられた。ありがたく甘受しようではないか」


『取らぬ狸の皮算用……という言葉があります』


「我々は大陸最大の闇ギルド––––『ルールブレイカー』だ、いくら竜王級といえど個人で相手できる規模の組織ではない。やりようはいくらでもある」


 ニヤリと笑い、超高速で飛び去るスカッド。

 だがその様子を、自前の高級単眼鏡でジッと観察する人間がいた。


「観察する側の人間って、いつも自分が見られてるなんて一切考えないもんですよね」


 車の運転席に座りながら、大英雄グラン・ポーツマスは小さく呟く。

 話しかけた相手は、助手席に座る王国駐在武官––––ジーク・ラインメタル大佐だ。


「観察する側される側……、傲慢な人間ほど得てして自分のことを“する側”だと強く思い込むものだよ」


 自作改造タブレットをいじりながら、大佐はのんびりと言う。


「なら、我々も観察される側ということですかね?」


「まさか、謙虚を具現化したような存在だぞ? 我々は。ゆえにこうして観察する側に回れてるわけじゃないか」


 ユーモアと自身への皮肉を交えた言葉に、グランは単眼鏡をしまいつつ返答。


「我々は傲慢な神じゃないですからね」


「あぁそうだ、私たちはちっぽけな人間だ……戦術上の最小単位に過ぎない。故に––––手段を尽くすことが我々の義務だ」


 大佐がタブレットをタップすると、音声が流れ始めた。


『せっかく我々が良心的価格で能力を売ってやったのに、まるで使いこなせていないな。やはり贋作ではこの程度か……』


『いえ、会場に反則的イレギュラーがいたのならば……この結果も然るべきでしょう。スカッド様』


 1つは男の声、もう1つは無機質で抑揚のないボイス。


 この2人は、スカッドとタブレットの空中における会話をキッチリ盗聴していたのだ。


「ふむ、録音データ異常なし。バカみたいに金をかけて組んだ甲斐があったな」


 ラインメタル大佐の自作タブレットは、自身の権限をフルに活用し、母国の国家予算を湯水のように使って作ったお手製品である。


 性能は超ハイスペック魔導端末のそれ以上であり、諜報用にあらゆるセーフティをオミット。

 狭い範囲ではあるが、相手のタブレットを乗っ取る芸当すら可能だった。


「闇ギルド『ルールブレイカー』……。能力売買の闇マーケットを運営しているのは、こいつらで間違いないだろう」


「スカッドと言えば、そこの凶悪犯罪者をカリスマで束ねるマスターにして、闇の商人としても有名です。これでとりあえず尻尾は掴めましたね」


「あぁ、こういうテロは実行犯を観察してさらに商売を肥やそうとする商人が現場に来ることはままある。ボスが自ら赴くとは思わなかったが……」


 タブレットの電源を落とし、グランの運転で車はゆっくり発進する。


「一歩前進だ、ルールを破る無法者は秩序によって平定されねばならない。アナーキーに早く鉄槌を浴びせたいね」


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