第279話・ミライ・ブラッドフォード
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神は消え去った……。
迷惑極まりない大天使を筆頭とする闇ギルドは殲滅され、残ったのは蒼天と花畑である。
「皮肉よね……全部を滅ぼそうとした女神が死んで、こんな綺麗な花が咲くなんて」
戦闘で傷だらけになったミライが、俺の隣で花を1輪つまんだ。
白色のそれは陽光を反射して、鏡のように彼女の顔を反射しそうだった。
「あぁ、ほんっっとうに……ウチの身内はロクなのがいなかったよ」
チラリと周囲を見れば、既に軍の部隊が進行してきていた。
あちこちに戦車や自走砲、仮説テントが展開され、いかにも事後現場と言った様相だ。
「ユリアとアリサは?」
俺の問いに、ミライは奥のテントを指差した。
「わたし達の中じゃエーベルハルトさんが一番重傷だったから、今あそこで治療を受けてるわ。アリサちゃんはその付き添い」
「そうか……今回はみんなにも、かなり無茶させちまったからな。後でユリアの所へ見舞いに行かないと」
「ぜひそうしてあげて、あの子には冬のコミックフェスタって言う重大イベントがあるんだから」
「そういえばユリアって、お前の同人誌のファンだったな。どうだ––––ちょっとは今回の戦い、創作の足しにはなったか?」
「バトル漫画を描くならアリだけど、わたしは純愛作品が専門なもんで。ちーっとも参考になりませーん」
腕を後頭部で組んだミライは、おもむろに空を見上げた。
雲が走り、ひたすら深い蒼が広がっている。
「……わたし達がさ、この世界を……守ったんだよね」
「あぁ、おかげで日常はこれからも続く……明日にはいつも通り。俺たちも生徒会で仕事してるだろうさ」
そう……脅威は全て消え去ったのだ。
因縁だったグリードとの決着もつき、女神も倒した。
もう残すところは––––最後の仕上げだけだ。
「なぁ、ミライ」
「ん〜?」
わざとらしそうにモジモジしている彼女へ、俺は誰もいない川の方を指した。
「ここじゃ落ち着けないだろう、あっちで喋らないか?」
「……うん、わかった」
川のせせらぎが気分を落ち着かせる。
俺は足元の石を掴むと、子供のように水面へ投げて見た。
波紋があっという間に呑まれる……。
「やっぱ……、バレてた?」
「当然だ。俺を誰だと思ってる」
石が水面を跳ねた。
「聞かせてくれるんだろ? あの日の回答を––––」
俺は鈍感系を名乗れない。
全ての憂いが払われた今、ミライの顔は決心を固めているように見えた。
アルテマ・クエストで保留した答えを、おそらく今日言うつもりだろう。
「うん、時間は十分貰ったし……これで決めれてなきゃ嘘っしょ」
ミライが投げた石は、俺のものより少し先まで跳ねて沈んだ。
「わたしは……アンタが好き、友達でも戦友でも親友でも親愛でもない。100%恋愛対象として––––アルスが好き」
今度は俺が投げた石の方が、ミライの先を行く。
「でもお前は、当時俺を求める資格がないと言った。だから回答を保留にした……まぁ俺から言えることはまず」
次の石を拾う。
「”よく頑張った“。お前より先に告白するユリアやアリサに流されず……お前は自分のタイミングを守り抜いた、だからこそ今この瞬間のお前が、本気だってわかる」
石が跳ねて沈んだ。
「––––正直かなり焦ってたけどね……でも、わたしはアンタを正面から求められる人間にまだなれてなかった。だから耐えた」
「誰にでもできることじゃない」
「えぇ、だってわたしは––––」
ミライの全身を、スパークが覆った。
茶髪が輝き、瞳もエメラルドグリーンに染まる。
「我慢強い日本人の血が……半分入ってるからさッ!」
血界魔装のパワーでぶん投げられた石は、川を横一閃に裂いて対岸へめり込んだ。
その勢いのまま、ミライは変身した状態で振り返る。
「アルス!!」
俺と彼女はお互いに正対した。
覇気のある瞳が、俺を真っすぐに見つめる。
全身のスパークは、まるで覚悟を現していた。
「わたしはエーベルハルトさんみたいな度胸持ちでもなければ、アリサちゃんみたいな根性持ちでもない。ちょっとキモいヲタクで創作好きな、ただの根暗女子よ」
一見卑下するような言い方。
しかしこれが、彼女にとって必要な儀式なのだ。
ミライは––––本来隠したい部分まで、今俺に見せている。
だからこそ変身しているのだ。
見せたい部分も、見せたくない部分も。
等しく俺に向かって曝け出すために。
「わがままで、独り言多くて、抱え込む性格で、決して天才でもない。でもわたしは今––––アンタの前に立てている!!」
全身のスパークがより激しくなった。
「だから今やっと言える……! アルス、わたしはアンタが好き、好きで好きで。この世で一番大好きでしょうがないッ。もう結婚する夢なんか100回見た! それくらいっ、わたしの方がっ、“アンタを神よりずっと求めてる”!!」
そこまで言い切って、ミライの変身が解けた。
元の姿に戻った彼女へ、俺は勢いよく駆け寄って抱き締めた。
「俺も……“お前が大好きだ“。ミライ、やっとその言葉が聞けて……俺も嬉しい」
「ッッ!!」
肩に顔をうずめたミライが、グスッと音を出した。
「やっと……ッ、やっと言えた……。やっと聞けたぁ」
「お前の悪い部分も良い部分も、全部俺は知ってる。改めて言わせてくれるか––––ミライ」
目尻の涙を指で取ってやり、キッチリ目線を合わせる。
「俺の家族に––––なってくれるか?」
「エグっ、はいっ……! 喜んでッ」
戦いは……ひとまず終わりを告げた。
だがこれはあくまで始まりに過ぎない、俺たちにはまだまだやるべきことが残っている。
「なぁミライ」
「んっ、なに……?」
俺は意を決して、覚悟と一緒にその言葉を押し出した。
「お前のもう1つの故郷––––【日本】に、俺がいつか必ず連れてってやる! 彼氏として……約束するっ」
お疲れ様でしたー、これにて第8章は完結となります。
遂に生徒会の3人と結ばれたわけですが、最初は本作……ハーレム予定じゃなかったんですよね。
ミライだけ本妻でユリアとアリサはアルスに好意を抱かない予定だったんですが、当時ユリアもという声が多々あったため変更––––今ここに至った訳です。
結果的にとても良い構成となったので、当時の声には大感謝です。
さて、これにて本作は無事完結……といきたいところですが、まだまだ物語は続くんですよね。
だって回収してない伏線や、書いてない描写……ざっと挙げただけで『残りの大天使』『ユリアの母国ヴィルヘルム帝国』『ユグドラシルネット』『解放されたノイマン』『日本』。
これに加えてめっちゃあるので、まだまだ書かなきゃです(汗)。
次章はまた書き終わり次第更新再開します、引き続きアルスたち生徒会の日常をお楽しみください。




