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第275話・滅竜王

 

「バカかおぬし!!! 追い詰められて自殺願望でも湧いたかッ!? 人間1人からならともかく、3人じゃと……!? そんなこと––––この世界の理が許さぬぞッ!!!」


 真っ先に反論したのは、大賢者であるフォルティシアさんだった。

 この世の全てを知っている彼女からの、ぐうの音も出ない正論。


 なぜならそう––––この世界において、複数人から1人へ魔力を与えることは禁忌の行為。

 通常、絶対にやってはいけないことなのだ。


 危機迫った表情でフォルティシアさんは続けた。


「かつてそれを行った魔人級魔導士は、膨大な負荷に耐えられず身体が爆発したんじゃぞ!! 魔力は個人ごとに違う波長がある、異なる魔力同士をかき混ぜることはこの世界が許しておらんのじゃッ!!!」


 怒気すら感じるフォルティシアさんへ最初に笑って見せたのは、弟子であるユリアだった。


「師匠、お忘れですか? 会長が一体誰なのかを」


「誰って……まさかおぬしッ」


「わたしは会長を信じます、この世で最もタフな体質を持つ『竜王級』という存在を。竜は––––竜王を信じるものなのですから」


 彼女はソッと、俺の背中へ手のひらを添えた。

 ユリアに続いて、ミライも手をくっつける。


「そういうこと、だからフォルティシアさんたちは、あの神の火球をほんの少しでも長く食い止めてください。大丈夫––––こいつ身体だけは頑丈なんで」


 ニッと笑うミライ。

 最後に、アリサが手をくっつけた。


「わたしは君に託すよ……アルスくん、あの火球は波長をわたしに寄せてるから、魔壊の力も効かない……自分は今できることを尽くすよ」


 3人の意思を見たフォルティシアさんは、小さな身体を震わせながら上空のレイへ正対した。


「あーもうッ! 馬鹿者ばっかりで嫌になるわい!! じゃが––––」


 宝具『インフィニティー・ハルバード』を軽快に振った大賢者は、神力を纏った。


「退屈な解答の万倍良いッ!! グラン! カレン!! 前衛は任せたぞ!!」


「「了解ッ!!」」


「始めろおぬしら!! 長くはもたぬ––––来るぞッ!!」


 俺を中心に魔法陣が浮かび上がった。

 ユリアたちが、一斉に魔力を流し込み始めたのだ。

 同時に、カレンとマスターから焔が噴き出る。


「「『イグニール・ヘックスグリッド』!!!!」」


 最強の防御魔法が、二重で展開される。

 通常なら突破不可能の絶対防壁。

 しかし、レイは笑みを崩さなかった。


「無駄な足掻きねっ、神の力を見るがいいッ!!!」


 火球が叩き落とされた。


 空間を突き破るように、圧倒的な威力をもって衝突する。

 マスターとカレンの2人掛かり、しかもあの『イグニール・ヘックスグリッド』を持ってしても、瞬く間にひしゃげていった。


 このままじゃもたないぞ……。


「私は見学で良いかなフォルティシアくん? どうもこの戦い、人間の身では荷が重いようだ」


「はっ! 冗談を言うでないぞジーク。おぬしも手伝え今すぐに!」


「そうは言っても、私は魔力も何も使えないただの軍人。何を隠そうとっくの前に勇者を辞めているんでね」


「そうかそうか、なら––––これでどうじゃッ!!」


 フォルティシアさんが腕を振るうと、ラインメタル大佐の体が僅かに光った。

 同時に、大佐の顔は見たこともないくらいに嫌悪感で満ちる。


 人間とは、これほど嫌そうな表情ができるのかと疑うレベルであった。


「ワシの神力を少し分けてやった、全員強制参加じゃ! ジーク・ラインメタル! 今この瞬間だけでも“勇者”に戻れッ!!」


「ッッ……!! まさか君からこんな仕打ちを喰らうとはね、後で覚えておくんだなっ」


 大佐の瞳が、メガネ越しに金色へ輝いた。

 フォルティシアさんと揃って、右手を崩壊寸前の『イグニール・ヘックスグリッド』に向ける。


「「対勇者極防御魔法(セイクリッド・オリンピア)』ッッ!!!」」


 焔の障壁へ重なるように現れた魔法陣は、なんと女神の火球を正面から堂々と受け止めてしまった。

 これが勇者の力……、パワーだけなら大天使に匹敵するかそれ以上だ。


「アルス! このまま一気に流し込むわよ、覚悟良い!?」


 地響きの中、ミライが代表して最終確認を行う。

 返答など––––とうに決まっていた。


「もちろんだ! お前らの力––––余さず俺に貸してくれッ!!」


「がってんッ!!」


 3人から尋常ではない量の魔力が流し込まれた。

 激痛と不快感、内臓を掻き回されるような感覚に強烈な吐き気を催す。


「ぐぅッ……かっ!」


 なるほど……、これは確かにキツイ!

 3人の異なる波長が外部から入ってきて、俺の波長が免疫さながらに反応しているのだ。


 だが––––ッ!!!


「会長!!」


「アルスくん!!」


 一瞬躊躇ったユリアとアリサへ叫ぶ。


「止めるなッ!!! 信じてくれ……! お前たちの全てを背負う生徒会長を! “竜王級”をッ!!! アルス・イージスフォードという1人の人間をッ!!」」


 眩む視界の奥で、展開された『イグニール・ヘックスグリッド』と『対勇者極防御魔法(セイクリッド・オリンピア)』にヒビが入っていた。


 もう持たない……!!


「俺は逃げないッ!! 全部受け止める!! 竜王を––––信じろおぉッ!!!」


 視界がホワイトアウトした。

 身体中からあらゆる感覚が一瞬消えたと思った矢先……、俺は目を覚ました。


「アルス……?」


 さっきまでと見える景色が違う、まるで––––竜の瞳を通したみたいに全てが輝いている。

 俺はゆっくり……前へ進んで、右拳を握った。


 竜王の目で着弾寸前の火球を見据え、紫色の魔力を纏う。

 それは本来、俺に使うことを許されていない技、


「『追放の拳(クラーク・イズ・イズグナーニエ)』」


 振り上げた拳の余波が天を貫いた。

 刹那、崩れ掛けの防壁ごと神の火球は弾け飛んだ。

 四散した炎が、レイの青くなった顔を照らす。


「サンキューみんな……想いは全部、確かに受け取ったッ」


 俺は全身を奮い立たせた。

 身体の中で、異なる4色の魔力が爆発的に燃え上がった。


「血界魔装––––『滅竜王の衣』ッ!!」


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