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第274話・この世界の禁忌

 

「マスター! ラインメタル大佐!? フォルティシアさんにカレンちゃんまで……! 怪我は大丈夫なの!?」


 突然の援軍に驚いたミライが、剣を構え直すカレンに声を掛けた。


「グリードにやられた分? あんなの1日寝れば余裕で治るわよ。むしろ待たせてごめんねミライ姉、ユリア姉さんもっ」


 チラリと後ろを見たカレンは、初対面となるアリサへウインクした。


「あなたがアルス兄さんの2人目の恋人ね、挨拶してる暇がないからとりあえずアリサ姉って呼んで良い?」


「えっ!? あっ……うん、大丈夫だけど」


「オッケー、じゃあこうして全員集合できたわけだけど……」


 正面で光が柱を形成した。

 あまりの輝きに視力を持ってかれそうになるが、全員目を逸らさない。


 連続した閃光の中から、レイは姿を現した。


「さて……殴り込んだはいいがどうしたもんかな、ルナや大佐は何か良い案でもないのかな?」


「悔しいが、いかなワシといえど……もう神を相手取れる年齢じゃないからのぉ」


「フンっ、年齢詐称ロリババアのフォルティシアくんが言うならそうなんだろうね。片割れに大半をくれてやった結果だな」


「そうは言うがなジーク、おぬしだってもはや神力を失った生身の人間。これは女神を殺すのが早すぎたおぬしの失態じゃぞ」


「痛いところを突いてくれるね、まぁ嘆いても仕方ない……今ある戦力でどうにかするしかないだろう」


 マスターにカレン、フォルティシアさんとラインメタル大佐は俺たちの前へ出た。


「はーうっざい、アルス兄さんに纏わりつく虫がこんなに多いなんてウンザリしちゃう。援軍のつもり? 笑わせるッ、大英雄に勇者に冒険者1位に大賢者––––そんなのもう怖くない。なんたってわたしはもう神なんだもの」


 ラインメタル大佐が軍服を整えた。


「はっ! 笑わせるはこっちの台詞だぞ愚かな女神よ……いや、”女神モドキ“と言った方が良いかな? 半神半人如きでイキって盲目になったか? 貴様はまだ神になり切れていない」


「何ですって?」


「儀式の踏むべき段階を、大天使の贄を使ってショートカットした結果だ。私の知る本来の神はもっとクソッタレだったぞ?」


「それこそ妄言ね……アルス兄さんは誰にも渡さない、神になった今だからこそ真実に気づけた。わたしはアルス兄さんを愛してる、好きで好きでたまらない! 構成する原子単位でわたしだけのものよッ!!」


 ここまで来るとキモすぎてもはやドン引きである。

 その間も、思考を巡らせる俺に代わって大佐が応戦した。


「やはりガキだな君は……、人間新しい家族ができれば古い家族などもはや他人同然なのだよ。血の繋がり如きでイージスフォードくんを拘束できると思い込んでいるなら、とんだ青二才だ」


「ッ!!!」


 うっわ……大人のチクチク言葉えげつねぇ、思いっきり地雷を踏み抜きやがったぞ。

 みるみる内に憤怒の表情へ染まったレイは、上空へ飛び上がった。


「豪華キャスト勢揃いのところ悪いけど……もう下等種族との会話も面倒くさい、全部消そう」


 レイの背中に付いていた羽根が、分離し周囲を高速回転し始めた。

 それらは超高密度のエネルギーを保有しており、余波のイナズマが周辺数キロへ走り回った。


 山脈が抉れ、河川がぶった斬られる。

 まだほんの一部だというのに、これが神の力か。


「素晴らしいわ神の力ッ! 高まる……! 溢れ出る! この世の摂理も法則も––––今なら全部捻じ曲げられる!!!」


 レイが掲げたのは、太陽のような熱球だった。

 それは先程スカッドが撃ったものより、数次元レベルが違うもの。

 正攻法で防ぐのは……もはや不可能か!


「ユリア! アリサ! ミライ!」


 俺は張り巡らせ続けた思考の中で、唯一光を放っていた脆い宝石を拾い上げた。

 けっして言ってはいけないことだが、もはや手はこれしか無い。


「お前ら3人の魔力……、1滴残らず俺に注いでくれッ。文字通り全部だ!」


 俺が叫んだ言葉は、この世界における“禁忌”そのものだった。


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