第269話・竜王級の限界突破
「なっ、なんだこれは……!!」
その異変を探知したのは、沖合に展開していたアルト・ストラトス王国艦隊だった。
後方150キロに展開していた駆逐艦から、緊急電報が届いたのだ。
『本艦上空を正体不明の超高速飛行物体が通過、隕石の可能性があるも断定できず、注意されたし』
どういうことだと、艦隊司令官は不審に思った。
しかもこの電報自体が、発信した駆逐艦よりさらに後方300キロにいる巡洋艦、さらにはアルト・ストラトス本土のレーダー施設よりリレー方式で送られて来ている。
通信官から電報を受け取ってすぐ、戦艦のレーダーにも反応があった。
レーダー員が輝点を見てすぐに、飛び上がった。
「か、艦長!! 本艦隊後方100キロより未確認飛行物体接近中!! 数1!」
「対空警戒!! 全対空砲、配置に着け! 目標の速度は?」
レーダー員は、何度もありえないと口にしながらも……言葉を押し出した。
「も、目標速度が……びょ、秒速7.8キロメートル以上なんです!! 時速換算でおよそ2万8000キロ……! 高度2500メートル!! あり得ない!!」
艦橋が凍りついた。
レーダー員が口にしたそれは、一般に言う”第1宇宙速度“と呼ばれるものだった。
これは、天体の衛星軌道上へ出てしまうほどの信じられない超々高速。
しかも、あり得ないのはそれが高度2500メートルというかなりの低空を飛行している点である。
これほどの速度を大気圏内で出そうものなら、断熱圧縮と呼ばれる現象によって瞬く間に燃え尽きてしまう。
発生する摩擦は隕石に相当し、また大気のプラズマ化によりどんな航空機でも不可能な飛び方だった。
「レーダーアラート!! 弾種、空中炸裂弾! および艦対空ミサイル発射用意! 火器管制レーダーでロックしろ!!!」
「的速が異常過ぎます! ロックオンレーダー追尾不能!! 目標!! 間も無く本艦上空を通過します!!」
こうして喋っているほんの僅かな間に、レーダーの輝点は真上へ差し掛かる。
すかさず見張り台へ出て空を見上げると……。
「蒼い……流星……?」
ほうき星を連想する飛行物体が、蒼色の炎に包まれながら飛んでいた。
あんな速度の飛翔物体を落とす方法はない、艦隊は1発も対空砲火を放つことなくそれを見送った。
◆
ネロスフィアⅡでも、その異常物体は目視していた。
「目標接近!! こんな理を捻じ曲げるようなことできるのは……竜王級、お兄ちゃんしかいないっ」
「レイ!!」
スカッドは必死の形相で神力を纏った。
「私の演算能力を貸してやる!!『荷電粒子砲』の発射は可能か!?」
「エネルギー充填100%!! 可能です!!」
「今すぐに撃て!! あの異常存在を撃ち落とせッ!!!」
未だ健在だった『荷電粒子砲』が、砲身の角度を微調整––––チャンバーからエネルギーを押し出した。
「『超高出力荷電粒子砲』!! 発射ッ!!!」
宙に浮いたレイが腕を振るう。
フル充填された荷電粒子砲が、蒼い流星目掛けて発射された。
都市国家を1発で塵にしてしまう禁忌の兵器が、亜光速で目標へ直撃する。
「よし!! やっ––––」
喜ぶ間など与えられなかった。
TNT換算にして500キロトンの威力を誇る切り札を、流星はいとも簡単に突破してきたのだ。
「きゃっ!?」
気づいた時には、『荷電粒子砲』の砲身が塔ごと蒸発していた。
砲身を直接ぶち抜いた蒼い流星は、上空を旋回しながら途中で紅色へ変化した。
急激に速度を落としたそれは……生徒会の3人と、大天使スカッドの間へ降り立った。
紅色の炎から、1人の“最強"が現れる。
「––––悪い、遅くなったな」
……それは、彼女たちがいつも頼る最愛の生徒会長。
竜王級アルス・イージスフォード––––彼は大事な家族へ振り返り、ニッといつもの笑顔を見せた。
大洋が横たわる1万キロという長々距離を、ブルーの圧倒的な出力で強引に飛翔してきたのだ。
本来なら巡航ミサイルでも十数時間以上掛かる距離……。
もはや彼にとって、大海洋など障壁にすらならないのだ。
「みんな本当に良く頑張ってくれた……、後は––––俺に任せろ」
スカッドに正対したアルスは、すかさず服から取り出した虎の子のポーション––––『マジタミンB』を飲み干し、枯渇していた魔力を復活させた。




