第268話・ユリアVS大天使スカッドⅤ
「なにっ? 今何と言った……!」
「いっつつ……、極上の大バカですよ、大天使スカッド。華奢なわたしをとことん痛めつけて、地面に這いつくばらせることを勝利と断定した……貴方の思慮の浅さを笑っているのです」
スカッドは上空の異変にようやく気づいた。
雨雲が、まるで太陽に照らされたように真っ赤で染まっているのだ。
太陽……、太陽!?
そういえばこの女は、さっき空中で自身の大技を盛大に外していた。
自分はそれを未熟と決めつけ、彼女を外郭へ叩き落とした。
だがもし、あの技が……“意図して外されたもの”だとしたら!?
それが今もコントロール下に置かれているとしたら!?
「ようやく気づきましたか……自称上位種族さん、でも。もう遅いんです」
上空の分厚い雲が一瞬で穴開く。
ホールパンチと言っていい現象の先、真っ赤に輝く熱球が空を照らしていた。
まさかッ、この女……!!!
「会長の好きなことを調べている内、この世界には“大陸間弾道ミサイル”なるものがあると……最近知りました。それは一度大気圏外へ飛び出し、宇宙空間から再度地上の目標へ向かい落下する」
真上から落ちてくるのは、間違いなく先ほどユリアが放った『太陽神越陣』だ。
しかも、速度が尋常ではない。
大気との摩擦で、轟々と燃え盛っていた
もしドクトリオンが顕在であれば、直前に警告もできただろう。
しかし、彼が討伐された今ではもはや叶わぬ絵空事。
ロフテッド軌道で大気圏へ再突入したユリアの特大魔法は、既に最大速へ達していた。
「“貴方の神化を阻止する”……それがこの戦いの勝利条件、––––わたしの勝ちです。大天使スカッド!」
「やめろ……やめろやめろっ! 止めろォッ!!! レイ!!!」
塔警備のレイ・イージスフォードへ叫ぶが、もう遅い。
ユリアの『太陽神越陣』は、重力をカタパルトに終末速度マッハ23という超々高速で、『神結いの儀式』が行われている尖塔––––その頂上へ直撃した。
「ッ!!!!」
衝撃波が広がり、雨雲が全て吹っ飛ばされた。
数十もの防護措置を取られたクリスタルが、根本まで亀裂が入って秒と経たずに崩壊する。
同時に、周囲を囲んでいたホムンクルスたちも糸の切れた人形のごとく崩れ落ちた。
温泉大都市ファンタジアに続き、またしてもユリアによって––––神結いの儀式は阻止されたのだ。
「……ッッ!!! やってくれたなッ!! エーベルハルトくんッ!!!」
スカッドの全身を莫大な神力が覆った。
彼の手に、眩い光が収束する。
「エンジェル・リンク––––コード2!!『アルファ・ブラスター』!!!」
怒り狂った大天使の攻撃魔法が、ユリア目掛けて放たれる。
既にユリアは勝利条件達成を見届け、抵抗も一切していない。
全てを灰燼に帰す天の一撃は––––ユリアの眼前で四散した。
「何っ!?」
直後にクレーターへ飛び込んできたのは、ツーサイドアップにした紫色の髪を持つ少女だった。
「ユリ!!!」
血界魔装を発動したアリサ・イリインスキーが、ユリアの正面へ降り立つ。
間一髪で駆けつけた彼女が、大天使の魔法を無効化したのだ。
さらに––––
「『レイド・スパーク––––フルバースト』!!!」
超高電圧の雷撃が、スカッドを襲った。
すぐさまオーラを広げることで相殺するが、スカッドは思わず歯噛みする。
「お待たせ! エーベルハルトさん」
ユリアを庇うように前へ出たのは、ミライ・ブラッドフォード。
生徒会の双竜が、ここに来て合流してきたのだ。
しかしスカッドは、顔色を変えない。
「無駄な抵抗だと思わんかね? 今の君たちにこの私を倒す術はない! いくら神化を阻止できたと言っても––––君たち3人を葬り去るのは容易いことだぞ」
見たところ、双龍は既にかなり消耗している。
ユリアに至っては満身創痍だ。
今度こそ3人もろとも消し去ろうと構えた時、上空のレイから震えた声が届いた。
「す、スカッド様……!」
「何かね? もはや神化の望みは潰えたのだ! この3人を殺してすぐに撤退するぞ、レイ!」
「ち、違うんです! 魔導レーダーに大規模反応が––––これは、の……能力判定SSS!!」
大天使の脳裏に、最悪の可能性が浮かぶも即座に否定された。
「それは無い……それは無いぞレイ! 絶対に有り得ない!! ヤツは今頃この星の反対側だ! グリードが倒されたとして、竜王級がここへ今すぐ来れる訳がない!!」
冷や汗を流すスカッドへ、ユリアは陽光に照らされながら笑って見せた。
「言ったはずですよ……大天使、わたしはこの世の理すら変えられる、最強の竜王を知っていると。大事な彼女を傷つけられたあのお方は……はてさて、今どれだけ怒り狂っているか楽しみですね」




