第257話・アリサ&ミライVSドクトリオンⅠ
「う……そっ!」
確かに全力でパンチを打ち込んだ。
しかしアリサの拳は、ドクトリオンがまるで揺るがない山のように錯覚するほどアッサリ止められていた。
逃げるように後方へステップしたアリサは、ミライの隣まで一気に後退。
攻撃を全く受け付けなかったドクトリオンは、一方で物悲しそうに首を振る。
「双竜諸君はまだ幼い女の子なのに、髄分と大きな力を持っている。その腕の細さ……華奢さからは、物理的にありえないことです」
「……どういうこと?」
「簡単な話ですよ、この世界は実に歪過ぎる。作りが雑過ぎる……魔導士であれば、たとえ君たちのような女の子でも鉄筋コンクリートを簡単に壊せる」
「そんなの……当たり前じゃん」
アリサの言葉に、ドクトリオンはまたも首を振って否定した。
「いえいえ違うのですよ。魔力があればどんな物理限界ですら超えられてしまう……それは物理定数が意味をなさないことを指す。これでは世界が崩れるばかり、衰退が待つだけだ」
「アンタ……魔力の存在を否定するつもり?」
「もちろんですとも、それこそ私がルールブレイカーに入った目的。大衆が大きな力を使えるこの世界は––––不完全なのです!!」
ドクトリオンの白衣が内側から弾け飛ぶ。
現れたのは、黒く膨張した筋肉で覆われた肉体だった。
どう見ても人工的なものであり、所々にはチョーブが通っている。
「だからこそ正すのですよ、真に力を持つべき者だけが行使できる、強き物だけが生きれる世界へ構成し直すために。今ある不完全なこの世界をブレイクするためにッ!」
ドクトリオンから膨大な熱が溢れ出た。
尋常ではない殺気から、ミライはすかさず杖を具現化。
『雷轟竜の衣』へと変身する。
隣では既にアリサが床を蹴り、ドクトリオンへ攻撃を仕掛けていた。
「はああぁあッ!!!」
今度は一切の容赦なく、人間としての根本的な弱点である首を狙った。
アリサの蹴りは完璧にヒットした、これ以上表現のしようが無いくらいに。
だが––––
「ッ!!?」
ドクトリオンはニンマリと笑っていた。
攻撃は効いているどころか、逆にアリサが足の痛みを覚えてしまう。
「ぬぅんッ!!」
離れようとも遅すぎた。
アリサの細い足を掴んだドクトリオンは、力任せに床へ叩きつけた。
「ガッ……!?」
陥没した床の上で、アリサは激痛に呻いた。
麻痺して動けない少女の身体を、ドクトリオンは乱暴にミライ目掛けてぶん投げる。
「なっ!!」
彼女を助けようと高速移動中だったミライは、吹っ飛んできたアリサに衝突することで体勢を崩した。
ヤバいと思うも、次の瞬間には不気味な化け物となったドクトリオンが眼前に立っていた。
「うああっ!?」
防御する間も無く、全身に無数の乱打を受けた2人は部屋の壁へ叩きつけられた。
砂塵と瓦礫が宙を舞う中、2人はなんとかダウンだけはせずに立ち続ける。
「ゲホッ……! ミライさん!!」
「ハァッ……了解ッ!!」
2人の全身を膨大な魔力が覆った。
手加減なしの全力全開、これはミライとアリサが、もはや通常の攻撃では全く勝てないと即断した結果だ。
暴発しそうな竜の力をギリギリのところで制御し、アリサは再びドクトリオンへ急接近した。
「滅軍戦技––––『追放の拳』ッッ!!!」
本気の一撃は、ドクトリオンのみぞおちに命中。
今度はさっきやられたことのお返しとばかりに、彼を壁まで吹っ飛ばした。
間髪入れずに、今度はミライが杖を大きく振った。
「滅軍戦技––––『天界雷轟』ッ!!!」
超高密度のイナズマが、未だ砂塵の中央にいるドクトリオンへ命中した。
大爆発が発生し、部屋を大きく揺らす……。
しばし部屋の一部が崩れる音だけこだまし、ある種の静けさが降りた時だった。
「うわっ……マジ?」
アリサが表情からしてドン引いている。
それはミライも同じことだった……。
2発もの滅軍戦技を食らい、半身の消え失せたドクトリオンが……涼しい表情で立っていたからだ。
部屋の機関から、何か粒子が彼へゴッと流れ込んでいく。
「数千体のホムンクルスを作成する上で、私はこの超強化筋肉の組成を編み出した。竜の力? それは大変結構。しかーしッ!!」
失われていた半身が、深呼吸1回で再生されてしまった。
「叡智はパワー、いくら君たちが選ばれし天才でも……私は既に遥か先の存在なのです」
既存の技がまるで通じない。
2人の脳裏に、“全く同じ考え”がよぎって否定される。




