第255話・アルスVS剣聖グリード・ランチェスターI
忘れもしない、俺の人生の始まりであり象徴。
眼前に立つ剣聖グリードは、その首に『フェイカー』をつけて立ちはだかった。
「待ってたゼェ! こうして直に会うのは……お前が俺たちを裏切ったあの日以来だな、アルス!」
「お前も、ラントもミリアもよく言うぜ。勝手に追放して勝手に困っただけじゃねえか」
俺の言葉で、自分の中にある思い込みとの整合性が取れなくなったのか、グリードの感情が昂る。
「スカッド様はこうして助けてくれたのに……やっぱお前はクソだよアルス、人を見捨てて得た幸福は楽しいか? 俺に許可を取らず勝手に学園で順風満帆な生活を送りやがって」
「全部お前の招いた結果だ、人を見捨てて勝手に困って、挙句は裏切り者扱い。はてさてどっちがクソ野郎かな?」
「ッ……!! やっぱお前ムカつくわ、もういいここで死ね。その取り巻きの女たちも纏めてな––––」
グリードが喋り終わるのを待たず、俺は『身体能力強化』を発動。
金色のオーラで武装した超高速の拳を、ヤツの腹へ叩き込んだ。
「ガフッ!?」
深々とめり込むこの感触は……間違いない、本体だ。
ならっ!
「うがっ!?」
思い切り顎を蹴り上げ、上空へ吹っ飛んだグリードの上へ俺は1回のジャンプで追いついた。
「はっ!!!」
待っていた先で、両拳を振り下ろす。
打撃の爆音が響くと同時、道路へ落下したグリードは猛烈な砂塵を上げて激突した。
「はあぁあッ!!!」
モード変更、『魔法能力強化』と同時に『飛翔魔法』発動。
ヤツには喋らせる暇など与えない、いつまでもくだらない言い訳と逆恨みなど聞いてもいられん。
醜いだけ、くどいだけ、鬱陶しいだけだ!!
文字通りハラワタが煮え繰り返るッ。
「相変わらずグチグチ口だけは元気だな、せめて決戦の場でくらい! 剣聖として挑んできやがれ!」
真下へ構えたショットガンを、全開の魔力と一緒に撃ち放った。
散弾は魔力を帯びた流星群となって、グリードへ襲いかかった。
要塞全体が揺れる爆発連鎖の後、俺は急降下。
グリード目掛けて突っ込んだ。
「ユリア! アリサ! ミライ!!」
銃剣突撃は空を切る。
服もズタズタになったグリードが、痛みに呻きながらもすんでで回避したからだ。
しかし俺は構わず速度を上げて、グリードへ肉薄した。
刃同士が火花を散らす。
「ッ!!?」
「こいつは俺がやる!! 俺が決着をつける!! お前らはルールブレイカーの計画阻止に動け!!」
鍔迫り合う後ろで、彼女たちが各々散開した。
ユリアは俺の横を『飛翔魔法』で飛び去り、アリサとミライは隣の道へ駆けていく。
事前の計画通りだ。
「あぁそうかよアルス……ッ!! あくまで女共は巻き込まねえってか? 自称紳士め吐き気がする! ヒーローや主人公気取りはおままごとだけで留めろってんだよぉッッ!!」
グリードの剣を、俺は再びの『身体能力強化』発動によってアッサリ捌き切る。
「はっ! 剣聖だなんだと持て囃されて、配信サービスで観衆に鼻伸ばしてたお前と比べりゃ、よっぽど可愛いもんだろうよ」
「言いやがったなテメェ……!!! 良いぜ竜王級、教えてやるよ!!」
グリードの『フェイカー』が輝く。
いきなり魔力を剥がす魔法が来るかと思ったが、周囲の景色がドンドン歪んでいく。
これは––––
「お前が万一要塞に侵入した時に、100%無力化できる方法をスカッド様に賜った。いくらお前が最強の竜王級魔導士だとしても、絶対に効果がある戦術をなぁ!!!」
視界を一瞬光が覆ったかと思うと、異変は鼻が最初に察知した。
……潮風が漂っていた。
それだけではない、先ほどまで豪雨だったのが一転––––快晴だ。
俺はグリードから距離を置くと、今一度周囲を確認する。
「なるほど……、こういうことか」
俺は即座に理解し、納得した。
ここはネロスフィアⅡの上どころか、ミリシア王国内でもない。
周辺はのどかな草原と丘陵が広がっており、植生からしてまるで違う。
最も違和感を感じたのは、太陽が昇っていない。
––––星空だということだった。
「ようこそ––––地球の反対側、“グラジオン大陸”へ。同時にざまぁみろだ。いくらお前が無敵の竜王級といえど……惑星の反対側に転移させられたんじゃぁ、どうしようもねえなぁッ!!」
グリードが剣を構えると同じくして、下卑た笑みを見せる。
胸に下げられた『フェイカー』が輝きを増した。
「『グラウンド・ゼロ』!!!」
俺を包んでいた『身体能力強化』のオーラが、魔力ごと強制的に四散した。
周囲数キロから、魔力粒子の一切を感知できなくなる。
「これで終わりだな……アルス・イージスフォード! この勝負、剣聖グリード・ランチェスター様の勝ちだッ!!!」
俺とは逆に、グリードの身体にだけ魔力が宿った。
集まったそれは––––やがて1つの変身へと繋がる。
「『身体能力強化』!!!」
魔力を失った俺とは反対に、金色のオーラをグリードが纏う。
例の大天使がどう施したのかは知らないが、そのパワーは……俺が昔エンチャントしてやっていた全盛期。
つまり、剣聖グリードとして名を馳せていた時代と同レベルだった。




