第254話・王立魔法学園生徒会、突入
荷電粒子砲の発射を確認した俺たちは、乗っていた軍のワイバーンから飛び降りた。
すぐさま分厚い雲海を突き抜けると、豪雨の中––––巨大な要塞が見えた。
連合軍は、陽動作戦を完璧に遂行してくれた。
ならここからは––––
「俺たちがやる番だ!! 全員––––ついてこい!!」
「「「了解!!」」」
ミライ、アリサ、ユリアがそれぞれに返事をした。
この奇襲の成功率は、正直かなり低かった。
だが傲慢な大天使はこちらの策略へ見事にハマり、主砲を全開で撃ってしまった。
大いなる間違い、盛大な判断ミスだ。
これは、まさにその隙を突いた形の空挺降下である。
「やれッ!! アリサ!!」
「オッケー! アルスくん!!」
俺を追い抜いて降下していったアリサが、空中で魔力を爆発させた。
長い髪が一瞬で紫色へ変わり、全ての魔法を無力化する形態––––『魔壊竜の衣』へと変身したのだ。
彼女は拳を振りかぶり、紫色の流星がごとく突っ込んだ。
「滅軍戦技––––『追放の拳』!!!」
散々砲弾を弾いていた敵のシールドが、アリサの速度を乗せた拳1つで砕き割れた。
薄いガラスへ鉄球が当たったように、衝撃点を中心としてバラバラと盛大に割れ落ちていく。
「よっしゃ!! 次! アルスくん頼むよッ!!」
今度は俺がアリサを追い越し、精神を集中–––
全身を『魔法能力強化』の紅い魔力が覆った。
指先を2本向け、エネルギーを一挙に集中させる。
「『レイドスパーク』!!」
撃ち放った魔法は、2枚目のシールドを1秒も経たずに融解させた。
これで、俺たちを遮る障害物は何もない。
「そらっ、ついでだ!!」
出力を上げすぎてもはやレーザーとなった魔法を、俺はネロスフィアⅡの脚部へ撃ち込んだ。
恐ろしく太い脚部の根元が、あっという間に溶断。
歩行していた要塞が、音と地響きを立てて平原に落ちた。
「会長!!」
「ッ!?」
ユリアの警告で、咄嗟に身体を捻る。
要塞から飛んできた対空魔力弾が、俺をすんでのところで掠めた。
ルールブレイカーも流石に俺たちへ気づいたらしく、要塞上部を構築する都市エリアから矢継ぎ早に対空砲火が上がった。
「凄まじい弾幕だな、連中はなんとしてもここで俺たちを撃墜したいらしい。どうだユリア?」
俺の隣に来た彼女は、軽く要塞を一瞥して笑みを見せた。
「余裕です、こう見えてわたし––––天才ですので」
空中で急制動を掛けたユリアは、1人高空へ留まった。
自らの宝具に魔力を集めて、勢いよく振り上げる。
「星凱亜––––『金星煌爛雨』!!!」
対空砲火を飲み込むように、上空で金色の花が大きく咲き誇った。
花びらを思わせる誘導弾は弾幕を掻い潜り、発射元の砲台へ次々に命中。
下方で爆発の連鎖が起こる。
僅か数秒で、ユリアはあんなに激しかった対空砲火を黙らせてしまった。
再び彼女が追いついてくる。
「さすがだな」
「当然です、あんなにマズルフラッシュを瞬かせていては、狙ってくださいと言ってるようなものです。さぁ……行きますよ会長!」
「あぁ」
いよいよ黒煙の上がるネロスフィアⅡが視界に迫った。
ほぼ同時に『飛翔魔法』を発動した俺とユリアは、まだ自由落下中だったミライとアリサを空中で抱えた。
「腹に力入れろよミライ!」
「おっ、おぉおお!?」
高層建築に囲まれた要塞上部の都市、その十字路へ俺たちは降り立った。
メテオールによる空中ブレーキで、俺たちはパラシュート装備もなしに減速していた。
まぁ当然制動の負荷は掛かるので、ミライが変な声を思わず上げたわけだが。
「さて、無事到着だな……」
見上げた先にあるのは、要塞中央からそびえる謎の塔。
てっぺん付近では、人に似た物体が何体もグルグル回っていた。
あれがおそらく……『神結いの儀式』だろう。
例のホムンクルスとやらを原動力に、なんらか良くないことをしようとしている。
ならサッサとぶっ壊すのが吉だが––––
「お前ら! 下がれ!!」
俺はスリングで吊ったショットガンを持つと、“降ってきた”ヤツの剣撃を先っぽの銃剣で受け止めた。
衝撃波が周囲に走る。
数回ほど刃を交わらせたそいつは、俺の正面へ回転しながら降り立つ。
忘れもしない……俺はあの背中をギルド時代何度も見てきた、いつも振られていた愛剣の輝きは、まるで落ちない錆のように目へこびりついている。
「やっと土人形でもない、正真正銘の本体に会えた。本当に久しぶりだな––––“剣聖グリード”」
「あぁ……、俺も会えて嬉しいぜ裏切り者。俺たちを見捨て、優雅なハーレムライフに勤しむクソ野郎。竜王級アルス・イージスフォード!」
強襲を掛けてきた剣聖グリード・ランチェスターは、振り向きざまに恨めしそうな顔を俺へ向けた。




