第253話・全てはこの時のために
第1斉射を終えたアルト・ストラトス艦隊は、搭載する魔導レーダーに巨大な反応を探知した。
『目標に超高エネルギー反応!! なんてレベルだ……まだ上昇中!!』
レーダー員が間髪入れずに叫ぶ。
思わず艦橋側面の見張り台へ出たグリフィス艦長は、設置された双眼鏡から陸地を覗き込む。
ここからでも霞んで見えるネロスフィアⅡが、大きく動きを見せていた。
「目標の砲が動いているように思えるな……、やはりこちらを先に片付ける案か」
「では司令––––」
「あぁ、予定通り行動を起こす! 全艦撃ち方待てっ! 全速で回避行動用意!!」
軍の分析によれば、あの要塞が搭載する主砲はこちらの数千倍はくだらない威力を持つらしい。
直撃すればいかな大戦艦といえど蒸発は免れない、至近弾ですら爆発が起こす巨大な波で艦を丸ごとひっくり返される。
ならば、取る行動はたった1つしかなかった。
自分たちの“本命”は、これを凌がねば決まらないのだから……!
「艦橋! 見張りを厳にしろ!! タイミングが重要だ!! 取り舵いっぱーい!!」
『取り舵いっぱーい! 10度ヨーソロー!!』
艦隊が一斉に舵を切る中、砲術関係員が大急ぎで右舷砲台陣地へ向かった。
そこは、本来対潜ミサイルランチャーが置かれている場所。
「砲術長……、本当にこれでかわせるんですかね?」
「さぁな、やってみなきゃわからん。竜王級の提言を信じるしかないだろう」
作業する途中で、陸地方面が眩しく輝き始めた。
『目標エネルギー95%に到達!! 火器管制レーダーの照射を確認!! “ロックオン”されました!!!』
艦内にけたたましいアラートが鳴り響く。
ロックされたということは、万一がない限り必ず当てられるということ。
ならば––––
「その万に一つを……、これで10に1つくらいにしてやろうじゃねえかッ!!」
「作業完了!! 砲術長! 離れましょう!!」
砲術員が有線ケーブルを引っ張って隠れた瞬間、ネロスフィアⅡの放つ紫色の輝きが絶頂を迎えた。
超高エネルギーが押し出され、衝撃波と一緒に撃ち出されたのだ。
「目標!! 主砲を発射!! 以前ロックオンは継続中!!」
艦隊全艦は、この作戦前に竜王級より提案された回避行動を実践した。
「全艦!! “チャフランチャー”発射!!」
円形の筒から火薬で空へ撃ち出された弾が、戦艦の上空で爆発する。
大量に散布された銀色の繊維は、レーダーを撹乱するアルミ箔。
中間誘導の最中だったネロスフィアⅡのレーダーは、散布されたチャフを目標と誤認。
荷電粒子砲は艦隊の遥か上空を通り過ぎ––––
「うおおぉッ!!」
水平線の彼方で大爆発を起こした。
水柱が雲の高さまで昇っているのを見るに、直撃していれば蒸発していただろう。
しかし、それは避けられた。
艦隊はデコイによる撹乱を、見事に成功させたのだ。
「バカな……ッ!」
これに驚いたのは大天使スカッドである。
まさかこんな手で回避されるとは、微塵も思っていなかったのだ。
「どういうことだ、ドクトリオン」
『アルミ箔を大量に散布して、こちらの火器管制レーダーを撹乱したようです』
「次弾発射は?」
『現在充填中! 完了まで30分!』
なんということだ……! これなら手動照準にするか、眼前の機甲部隊を薙ぎ払えば良かった。
だが後悔してももう遅い、スカッドは次の報告に顔面を青くした。
塔の警備にあたっていた、レイ・イージスフォードからの急報である。
『スカッド様、上空に何かいます!』
「なにっ?」
モニターを5つ同時に展開し、要塞上空を見張る。
大天使の目をもってすれば、こんな雲など貫通して見ることが可能だった。
可能だったばかりに、最も早く絶望を知ることになるのだが。
「なっ!?」
全ては巧妙に仕組まれた陽動だった。
あの機甲部隊も、洋上の艦隊も囮だったのだ。
求めたのはこの瞬間、この一瞬のために––––こちらの主砲の残弾をゼロにするためのッ。
「総員、上空警戒!!」
スカッドが叫ぶも、遅かった。
雲を貫いて、4つの人影が急降下してきた。
それは白色の制服を纏った、1人の男と3人の少女たち。
彼らは、荷電粒子砲の脅威が消えた瞬間……こちらの直上までワイバーンに乗って到達。
そこから一気に空挺降下を行ったのだ。
降下メンバーは言わずもがな、ミリシアが誇る最強の組織––––王立魔法学園生徒会だった。
「やってくれたなッ……!! 竜王級アルス・イージスフォードッ!!!」
全てはこの4人が降下するための陽動。
これこそが、連中の“本命“か!!




