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第252話・会敵

 

 異変は地面から先に伝わってきた。

 最初こそ気のせいかと思ったそれは、遠方より伝わる地響きだとすぐにわかった。


「おでましだな」


 天幕を出たラインメタル大佐が、双眼鏡を目の位置へ持ってくる。

 映ったのは––––低めの山を潰す勢いで踏みつけ、乗り越えて来る超巨大物体。


 ––––移動要塞ネロスフィアⅡだった。


「総員!! 戦闘用意ッ!!!」


 ヘブン・ブレイク戦闘団が、目標との会敵に合わせて行動を開始した。

 戦車部隊の砲門が一斉に動き出し、車体の真横で固定する。


 戦車とは通常歩兵に恐れられる存在だが、今回は明らかに互いのサイズ比が違いすぎた。

 1つの山を軽々乗り越え、平原に躍り出てきた移動要塞はまさしく魔獣のそれ。


 兵士たちは事前の計画通り、一番脆いであろう部位へ照準を定めた。


『ティーガー01よりティーガー各車! 目標正面! 移動要塞ネロスフィアⅡ!! 弾種、対榴! 大隊集中射––––3、2、1……撃てッ!!!』


 河川敷が砲炎で白色に塗りつぶされた。

 平原いっぱいに展開した戦車師団の砲撃は、音速を超える速さで飛翔––––要塞目掛けて着弾する。


 一撃で建物を吹き飛ばしてしまう対戦車榴弾が、まるでマシンガンのように撃ち込まれた。

 だがまだ爆煙も晴れぬうちに、装填手が次弾装填を終えた。


『全弾命中!! 続いて撃てッ!!』


 要塞の起こす地響きとは別に、戦車砲の一斉発射による振動が大地を揺らした。

 第2射も見事に命中、しかし––––


『こちらパンター10、やはりダメです! 魔甲障壁(シールド)に全部弾かれます!! 目標に届きません!!』


『こちら戦闘団本部、シールドに構うな! 撃ち続けろ! 砲兵部隊が射撃を開始する!!』


 ネロスフィアⅡが進撃したことで、作戦は進行。

 後方に展開していた砲兵部隊が、合図と同時に155ミリ榴弾砲を発射した。


『弾着10秒前––––!!』


 榴弾は空へ撃ち上げられ、やがてゆっくりと弧を描く。

 その間も、絶え間ない戦車部隊による砲撃がネロスフィアⅡのシールドにぶつかり続ける。


『5、4、3、2––––インパクトッ!!!』


 シールドの頂上部に、砲弾が雨と一緒に叩き降った。

 しかし、これでもシールドは……全くびくともしない。

 その様子を要塞内から見ていた大天使スカッドは、顔色を変えずに聞いた。


「ドクトリオン、シールド稼働率は?」


『未だ10%ちょっとですよ!! 全くもって無問題ですッ!』


「フンっ、人間とは愚かなものだ……無駄と分かっていても馬鹿を繰り返す。実に非効率的だ、気が変わった」


 スカッドが手を振る。

 現れたスクリーンに、砲火を瞬かせる戦車部隊が映った。


『っと、申されますと?』


荷電粒子砲(ガルガンティア)の出力を30%まで落として、あの無意味な戦車部隊にお見舞いしてやれ。その程度のパワーなら……相手は後方の司令部ごと吹っ飛んでもこちらは無傷だろう」


「りょぉおうかいッ!!」


 コントロール・ルームのドクトリオンが、端末を操作。

 固定されていた荷電粒子砲の砲身が、不気味に光り始めた。


「さぁ、終わりだ……竜王級もあの司令部内に控えているだろう。出てくる前に纏めて吹っ飛ばし、我らが織りなすルールブレイクの序章にしてやれッ」


『ガルガンティア』がエネルギー充填を終え、前方にいよいよ発射しようとした時だった。


「ぬぅっ!?」


 要塞が大きく揺らされた。

 荷電粒子砲の発射によるものではない、外から加えられた強すぎる衝撃によってだ。


「何が当たった、ドクトリオン」


「お待ちください、現在弾道を逆算中ですッ」


 10秒もしない内に、答えは出てきた。


「なんとっ、ここから南方30キロの海上に艦隊が浮いているではありませんかッ! 見つけましたヨォ」


 さっきの衝撃は、この超弩級戦艦群による砲撃のせいだった。

 今の斉射で、余裕だったシールド稼働率が一気に30%も上乗せされている。


「この荒天で大した腕前じゃないか……博士、『ガルガンティア』の出力を100%に引き上げろ。まずはあの洋上の艦隊から沈めてやろうじゃないか。きっと竜王級も喜ぶ」


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