第249話・決戦、ルールブレイカー
––––早朝。
「本気ですよね? 会長」
ユリアの声が静かに響くのは、いつも平和な日常を過ごしてきた王立魔法学園の生徒会室。
俺は普段サイドに寄せている長机を真ん中に置き、その一角で座っていた。
残り3面を囲むようにして、ユリアとアリサ、ミライが座る。
「当然だ、まさかそれ以外の答えが欲しいだなんて……今さら言わないよな?」
M1897ショットガンを持ち上げる俺へ、ユリアは無論とばかりに首を振った。
「いえ、今一度確認しただけです。会長の意向に––––わたしたちは最初から異存などありません」
机には、俺が生徒会長として今まで購入したあらゆる武器が置かれていた。
ライフルや拳銃、擲弾発射器まで様々ある中を、アリサがいじくりながら口開く。
声色には俺と同じく––––”怒り“がこもっていた。
「うん、アルスくんの義妹さんがあんな惨い目に遭わされたんだから……果てまで付き合うよ。あの世の隣だろうとどこまでも、とことんまでね」
M1911ハンドガンのスライドを引き、砂利や埃が挟まっていないかをチェックしたアリサは、リコイルスプリングの強度とグリップセーフティのオミットを確認。
俺から受け取ったマガジンをスカートのベルトへ差すと、ハンマーダウンにした状態でさらにもう1本マガジンを銃本体へ込めた。
カチャリと、小気味良い音が鳴る。
普段己の拳しか使わないアリサだが、キールのスパイ時代には銃器も扱っていたらしい。
なので、グリードの魔力を剥がすという能力への対抗策として持たせることとなった。
本人はもう二度と使わないつもりだったようだが、先日もたらされた報によってそんな考えは消し飛んだようだ。
「カレンちゃんに手出したこと、絶対に許しちゃダメよね……っ。もし大佐が助けてくれなかったら、もう会えなくなるところだったんだもの」
ペン型魔法杖を入念にチェックしていたミライが、怒りに歯噛みしながら杖を握り締める。
あの日––––カレンは日付けが変わっても帰って来なかった。
電話があったのは、明け方くらいだろうか。
ラインメタル大佐からの連絡で顔を青くしたマスターに連れられ、俺は徹夜明けにもかかわらず車に飛び乗った。
そして目にしたのは……大病院のベッドで意識不明の状態で横たわるカレンの姿だった。
いわく、ゴースト区画を近道しようとしたところグリードに強襲を受けたらしい。
フェイカーの能力で魔法を封じられ、瀕死になるまで痛ぶられたところを救出されたと。
ベッドに寄り添い、慟哭に包まれるマスターを後ろから見て、俺は決心と覚悟を決めた。
「グリード諸共……今日中に、ルールブレイカーをぶっ潰す。これまでと今回のカレンへの攻撃––––それ全部含めて、俺たちへの宣戦布告だからだ」
立ちながらスリングで銃を吊った俺に、ユリアも同意の意思を示した。
「えぇ、後悔させてやりましょう。わたしたち王立魔法学園の生徒会を……本気で怒らせたこと」
ユリアの手に、宝具『インフィニティー・オーダー』が具現化した。
もう片付けられているが、さっきまで部屋の壁際には粉々のティーカップが散乱していた。
妹として慕うカレンの状態を聞いたユリアが、静かに激昂し––––淹れていた紅茶ごとカップを壁で叩き割ったのだ。
あの時の彼女の、憤怒に満ちた顔を俺は生涯忘れないだろう。
「お前ら、改めて言っとくぞ」
戦闘準備を整える役員たちへ、俺は大事なことを今一度伝えた。
「決着は間違いなく今日だ。軍も学校も同じ意向だが––––忘れるな。明日には全員無事にこの部屋へ帰ってくること、それが作戦に参加する条件だ」
俺の言葉に、各々答えは返ってきた。
「当然です、生徒会は忙しいですからね。“全てのモヤモヤ”と後回しにされていたことへも––––この際ケリをつけましょう」
「ユリの言う通りだよ、わたしたち超多忙だしね。後回しにしてることも……キッチリ解消しよう」
「なっ、なんで2人共こっち見るのよ……! そうね、ここに帰るのは前提条件。その時は––––」
全員が立ち上がった。
「「「「全部終わっている」」」」
生徒会室の扉がノックされた。
修理されたばかりのそれが開くと、大勢の軍人を引き連れたラインメタル大佐とマスターが現れた。
「準備は……できたようだね?」
「はい大佐、全員の意思確認も終わっています」
「結構だ、先ほど––––西方山脈を監視中だったミリシア海洋大気庁より報告が入った。ルールブレイカーの本拠地である超巨大移動要塞が、ついに稼働したとな」
俺の脳裏に、かつて理不尽に追放してくれた剣聖の憎たらしい顔が過ぎる。
ヤツだけは––––
「さぁ、行こう」
ショットガンをコッキングしながら、俺は全員を引き連れて部屋を出た。
ヤツだけは、俺がこの手でケリをつける。
グリード……、今日が全ての決着の日だ。
ルールブレイカー決戦編、ここからは後半です。
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