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第247話・グラウンド・ゼロ

 

 異変は突然カレンを襲った。

 グリードに貫く勢いで近づいた瞬間、纏っていた焔が全て四散したのだ。


 それだけではない。

『血界魔装』の強制解除に加え、いつもの振り慣れた剣がズシリと重くなったのだ。


 蒼焔がほとばしっていた亜麻色の髪も、夜の闇に飲まれる。


「えっ……!」


 威力も速度も消滅したカレンの攻撃は、グリードにアッサリ弾かれる。

 それどころか––––


「オッラァッ!!!」


 無防備な体勢になったところで、グリードの膝蹴りがカレンの腹部を直撃した。

 あまりの衝撃に視界が数瞬暗転する。


「ゲホッ……!?」


 地面を激しく転がった先で、カレンは涙目になりながら嗚咽を漏らした。

 何が……起きた!? なぜ変身も魔法も解けた?


 カレンが未だ痛みで思考の混濁する中、グリードはゆっくり歩を進めた。


「ハハッ、なるほど……! これが“魔力補正無し”の女の力か。思ってたよりずっとか弱いもんだなぁ」


 魔力補正無し。

 この言葉で、カレンはヨロヨロと起き上がりながら疑問を確信に変える。


「まさか……っ」


「へっ、もう気づいたか……そうさ。これが俺の新たな能力だ」


 剣が……重い。

 これでは、まともに振ることすらできないだろう。

 なんとか起き上がったカレンへ、グリードは自慢げに語る。


「スカッド様が言ってたぜ……。この世界の魔導士は普段から無意識に魔力を使っている、そのせいで本来持つ以上の力を人間が持ってしまっているとな」


「ケホッ……じゃあ、アンタの力は……」


「そうさっ! この周囲一帯から全ての魔力粒子を消滅させた! これが俺の能力––––『グラウンド・ゼロ』! カレン・ポーツマス、これでお前は……もはやただのガキだ」


 突っ込んでくるグリードへ、剣による防御を諦めて精神を集中させた。


「イグニール……っ、ヘックスグリッド!!」


 手をかざすカレンだが、魔法は全く発動しない。

 当然だ……行使するために必要な魔力を、全て身体から剥ぎ取られているのだから。


「ぐっ!」


 グリードの剣を、14歳の少女が細い腕の筋力だけで受け止めるのは不可能だった。

 すぐさま弾かれ、勢いのまま壁へ背中から叩きつけられた。


「あぐっ!!」


「ヒッハッハァ!!! オラァッ!!」


 追い討ちは続く。

 尻もちをつく前に飛び込んできたグリードの蹴りが、カレンをコンクリートの奥まで一気にめり込ませた。


「かっ…………ッ!!?」


 強烈な痛みで思考もできなくなったカレンは、込み上げてきた吐き気に押し負ける。


「ゲポッ……!」


 吐き出した血の塊が、自身の腹へ食い込むグリードのブーツへ、コップをひっくり返したようにぶちまけられた。

 普段彼女を覆っている魔力の防壁がない。


 つまり、防具も着ていないカレンはノーガードの状態で攻撃を喰らったのだ。


「おっと……言い忘れてたが、この空間内では俺だけが魔力を使える。つまり––––」


 足を引き抜いたグリードは、拳にエネルギーを集中させた。


「もはや魔導士とも呼べねえテメエを、こっちは一方的にぶん殴れるってわけだぜ!!」


 壁に埋まったカレンへ、何度も殴打の嵐を見舞った。

 あえて剣を使わず、殺してしまわないギリギリのラインでただひたすらに笑いながら痛ぶり尽くす。


 5分が経った頃だろう。

 魔力を行使できないカレンは、激痛の中でやがて意識を失った。


 右手に持っていた剣が、甲高い音を立てて地面に落ちる。

 同時に、彼女自身も脱力して石畳へ倒れ込んだ。


「おいおいだらしねぇな、もう寝ちまったか。やはり剣聖の俺こそ––––ランキング1位に相応しいみてえだなぁ?」


 血のついた足で背中を踏みつけるが、カレンはもう身動き1つできない。

 無抵抗となった彼女へ、いよいよ剣を向けた。


「良い前座だったぜカレン・ポーツマス、あの世でアルスとすぐに会わせてやるから––––待ってろよッ!」


 真っ直ぐ縦に降ろされた剣は……、


 ––––ダァンッ––––!!!


 横から音速を超えて飛翔してきた弾丸によって、位置をずらされた。

 先端が鈍い音を立てて、カレンのすぐ傍の地面へ鋭く突き刺さる。


「なっ!?」


 思わず暗闇を見やった。

 自分がさっきナイフを投げた路地から、1人の男が歩み出てくる。


「ふむ。フェイカーの反応が現れたんで将軍との会食を放って来てみたが……、どうやら正しかったらしいね」


 金髪碧眼に整った顔立ち、しかし歴戦をくぐり抜けた空気を纏うその男は––––アルト・ストラトス陸軍の駐在武官。

 アルスが全面的に信用する協力者にして、別の大陸の元勇者。


「君を痛ぶりなぶり殺すのは私の役目じゃないが……、今だけはイージスフォード君の代打を担当しよう」


 名を––––ジーク・ラインメタル大佐だった。

 その右手には、M1911自動拳銃が握られている。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 大佐キタ━━━━(゜∀゜)━━━━!! [一言] グリードはどんどん汚い男に落ちていっていますね(;´Д`)
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