第243話・決着! 公式戦!
学びだと!? そんな戯言断じて通して良いわけがない!!
ここは学び舎、そのような学にも実にも金にもならない戯言……っ!
「ありえない……っ! ありえないありえないありえないッ!!! 不純異性交遊が学び? はっははは!! 道化師よりも笑わせるじゃない! わたしは規律違反が成長だなんて絶対認めないわッ!!」
両手に長身の氷剣を錬成したマチルダは、地に響くような咆哮を放つ。
魔力がさらに底上げされた。
彼女の理念、信条、理想にとって、眼前の光景などあってはならなかったのだ。
けれども立ちはだかる2体の竜は、見るより明らかな証拠だった。
「認めないなら良いよ、でもそっちが規律を無理矢理押し付けてくるなら––––」
予備動作すら見せない超高速移動で、『魔壊竜の衣』を発動したアリサが接近––––拳を握っていた。
「なっ……!?」
「わたしたちが教えてあげる、規律は他人に押し付けるものじゃないってね」
「ガッ……!?」
2刀の氷剣をアッサリぶち抜いて、アリサの拳が手首までマチルダのみぞおちへめり込んだ。
衝撃波が彼女の背中を突き抜けた。
「オエッ……!?」
地面を勢いよく転がった先で、マチルダは胃の内容物を吐き戻した。
さっきまでとは拳の鋭さが違う……、まるでトラックにでもぶつかられたかに思う衝撃。
睨んだ先で、紫色のオーラに包まれるアリサが拳を握っていた。
「お返しだよ、人に吐かせておいて自分だけ無傷で済むわけないじゃん」
「アっ……リサ、イリインスキー!! ゲホッ……、何が血界魔装よ! そんな雑多な変身でこのわたしが––––」
マチルダの言葉は途中で遮られた。
なぜなら、天空よりイカヅチの猛連打が降り注いだからだ。
1発1発がさっきの雷撃の比ではない、もし喰らったらヤバい。
軋む体で必死に避け、直撃コースの攻撃は氷を錬成して防御。
彼女の速度は学園第3位にふさわしいものだった、が……マチルダの背後には気づかせる間も無くミライが立っていた。
背中が勢いよく胸に当たり、恐怖がゾワっと押し寄せた。
「ッ……!!」
「マチルダ……、確かにアンタは強いわ。一時期エーベルハルトさんに唯一対抗できるかも、なんて言われてただけある」
「一時期ですって? 今この瞬間もよ!!」
ミライの言葉を拒否するかのごとく、マチルダは振り返りざまに首元目掛けて氷剣を振った。
しかし、鉄すら切り捨てる彼女の剣は空気を切る。
「ガァっ……!!?」
マチルダが動作に移る時間だけで、ミライは『雷轟竜の衣』による圧倒的なスピードで攻撃していた。
具現化したペン型魔法杖が、彼女の脇腹に深々とめり込む。
「それはアルスが入学する前の話、アイツが来て……全部が変わった。わたしもアリサちゃんも、あのエーベルハルトさんでさえも!」
思わず距離を取ったマチルダが、怒号を上げた。
このわたしが距離を空けた、空けさせられた……その事実が怒りとなってマグマのように煮えたぎる。
「何が……っ、変わったっていうのよッ!!! あんな規律乱しの生徒会長に何を感化されたって!? ウケるウケるウケるウケる! 不純異性交遊が何をもたらしたってのォッ!!」
青色の魔法陣がブワッと広がる。
高密度で集約された氷のシールドが、彼女を守るために展開された。
「何をもたらしたって……?」
その答えは行動で示された。
眼前からミライが消えたかと思うと、意識する暇もなくレイピアを思わせる雷撃の突きを喰らっていた。
「『雷轟刺突』」
アルスの『身体能力強化』に匹敵するか、あるいはそれ以上のスピードでイナズマの突きが打ち込まれた。
音より速い連撃が、氷のシールドを粉砕してなおマチルダを吹っ飛ばし続けた。
「アアアァァアっ! ガァッ!! うがああぁぁああ!!?」
「わたしたちは……アルスが来てくれたから自分を信じれた、アイツと戦って、救われたりして成長した! ずっと価値観の押し付けにかまけてたアンタとは––––既に雲泥の差がついてるのよっ!!」
100発に迫る連打を受けながら、マチルダは演習場の巨石に突っ込んだ。
ヒビ割れて間も無く、バラバラになった巨石が凍てついて弾けた。
中からボロボロのマチルダが現れ、残った魔力を全て指先へ集めた。
周辺を冷気が覆い尽くし、地面が凍りつく。
膨大な魔力の集中で、マチルダ自身のツインテールも水色に輝いた。
「うるさい!! うるさいうるさい!! こっちはそんなゲロクソ妄想に付き合う暇なんてないのよッ!! 規律と規範を司る風紀委員長として、お前を––––お前らを完膚なきまでに打ち倒すッ!!! それが風紀を調律するわたしの使命だからッ!!」
照準の先で、アリサが着地した。
「まとめて凍てつけッ!! 特大魔法––––『グラキエース・エクスプロージョン』!!!!」
放たれた絶対零度の切り札に、アリサがバッと駆け込んだ。
歯を食いしばり、右手一本にアルスから貰った全ての想いと力を集約させる。
「滅軍戦技––––『追放の拳』!!!」
全ての魔法を破壊する伝説の竜の一撃が、特大魔法ごとマチルダを拳のたった一振りで打ちのめした。
彼女のプライド、信念、想いを……さらに強い気持ちでもって粉砕したのだ。
轟音の後……抉られた地面に横たわり、気絶していたのはマチルダ本人だった。
水色に輝いていた髪が、フッと元の山吹色へ戻る。
完全に気を失っていた。
大地に立っていたのは––––ミライとアリサの“双竜”である。
「くっッ……こ、この公式戦、ミライ・ブラッドフォードおよび、アリサ・イリインスキーの勝利……ッ。くそ!」
悔しさに歯噛みする風紀委員を尻目に、ミライとアリサの2人は無言でハイタッチした。
言葉など必要ない、なにせ……持ってる想いは同じなのだから。




