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第242話・ミライ&アリサVS風紀委員長マチルダ・クルセイダー

 

「アリサちゃん!!」


「了解ッ!!」


 試合開始––––

 走り出すと同時に叫んだミライは、即座に援護要請を出した。


 まずは様子見、相手がどんな能力かを見るための威力偵察からだ。

 なにせ相手は、学園3位なのだから。


 アリサは思い切り地面を踏み砕くと、宙に浮いた一際大きい瓦礫を蹴り付けた。


 上空へ飛び上がったミライを追い越し、2正面からの同時攻撃。


「どうだっ!!」


 通常であれば両手を使うなり、回避するなりして見せるのだろう。


 だが攻撃の迫るマチルダは……笑っていた。

 同時に、彼女の身体中から冷気が溢れ出た。


「これで牽制のつもりかしらぁ? この私を誰だと思ってるの?」


 彼女を軸に現れた魔法陣から、氷柱が放射状に出現。

 飛んできた瓦礫が粉無尽に打ち砕かれる。


「ッ!! 氷属性魔法……!?」


 氷は容赦なくミライにも襲い掛かるが、体を捻ってなんとか紙一重のところで串刺しを免れる。

 しかしそれによって、空中で無防備に体を晒すこととなった。


「わたしは学園ランキング第3位! そんな雑多な攻撃が通じるわけないじゃなぁい!!」


「あぐっ!!」


 マチルダの両手に現れた氷のハンマーが、ミライを叩き飛ばした。

 地面を抉りながら転がったミライは、制服を土まみれにして倒れる。


「ぁぅ……!」


「ミライさん!! ッ!?」


「よそ見してる場合じゃないわヨォ!!」


 ハンマーが消失、マチルダの周囲へ無数の氷槍が出現した。


「上位氷属性魔法!『グラキエース・フレシェットランス』!!!」


 一斉に向かってくる氷槍。

 アリサは精神を集中させると同時、髪色を淡い紫色へ変える。


 槍が超スピードでアリサへ直撃したように見えたが、すんでのところで全て消失していた。


「噂の『マジックブレイカー』ね、でも––––」


 飛翔した氷槍が軌道を変え、アリサの目の前で地面に次々突き刺さった。

 砂埃で目に痛みが走った瞬間、もう彼女の眼前にマチルダは肉薄していた。


 あまりにも速すぎるっ、反応が追いつかない。


「既に分析済みよ会計さん、アンタが無双できるのは––––ひ弱な魔法使いだけッ!!」


 巨人を思わせる重みを持つパンチが、無防備なアリサの腹部に突き刺さった。


「おえっ……!?」


 打ち込まれたこぶしが手首までめり込む威力に、アリサはたまらず胃液を吐き出した。

 想像以上のダメージで『マジックブレイカー』が解除され、髪の輝きも消え去る。


「その吐瀉物みたいに汚れ切った生徒会……っ、わたしが浄化してあげるから。喘いでる余裕なんかないわよ」


「ッ! 自分で人に吐かしといて言ってくれるじゃん……! だったら!!」


「!!」


 鈍痛を振り切って正面から取っ組み合ったアリサは、再び『マジックブレイカー』を発動。

 ガッチリ両手を掴み、逃がさない。


「ミライさん!!」


 砂塵の向こうから、合図と共に雷撃が突っ込んできた。

 魔法を無効化できるアリサを除いて、マチルダだけが電撃の奔流に呑まれる。


 しかし––––


「便利な戦術ね、けど残念」


 マチルダは全くの無傷だった。

 それどころか、逃げようとしたアリサが逆に捕まってしまう。


「はな……せっ!!」


「私は魔人級魔導士、しょせん1個下のエルフ王級に過ぎないアンタらじゃ……勝負になんないのよ」


「ガフッ!?」


 足裏で強烈な蹴りを腹へ叩き込まれたアリサが、痛みに堪えて距離を取る。

 下がった先には、ちょうど体勢を立て直すミライもいた。


 観衆の風紀委員が、大盛り上がりでマチルダを応援している。


「一応降伏をお勧めするわぁ、アナタたちじゃわたしには勝てないもの。ハッキリ言って雨が逆さに降る確率より低いわ」


「ふぅん……」


「雨ねぇ」


 2人は静かに魔力を鎮めていった……。

 確かに、アルスと出会う以前の”この状態“ではとても勝機などないだろう。


 どんなに頑張っても、力の差は歴然だった。

 彼と……あの人と出会うまでは。


「マチルダさん」


 口元を拭ったアリサが、ニッと笑みを浮かべた。

 脳裏では、大切な彼氏がこんなもんじゃないだろうとゲキを飛ばしてくる


「君の言う風紀の乱れ……そっちの価値観じゃぁ、なんの学びも得るものもないかもしんないけどさ。わたしにとっては一生物の学びなんだよ」


 ここまで表情を崩していなかったマチルダは、背筋に妙な感覚を覚えた。

 なんだ……これはっ––––恐怖!?


「わたしにとって彼は命の恩人で、さいっっこうの会長で、わたしの可能性を引き出してくれたッ!! さいっっきょうの恋人なんだッ!!!」


 アリサの全身から、さっきの戦闘とは比較にもならない魔力が溢れ出た。

 濃い紫色のオーラが、髪だけでなく瞳まで染色していく。


 これは……!!


「そういうことよマチルダ、わたしたちは……アルスに教えられた。自分で乗り越えること、自分を持つということ、他人に頼りっぱなしはダメだということをッ」


 魔力の爆発が起きたのはミライも同様だった。

 全身を覆うようにスパークが現れ、土に汚れた茶髪が明るく輝いていた。


「そんな重くてズッシリした最高の学びを、不純異性交遊というくだらない一言で––––邪魔なんかしないでッ!!」


 マチルダはここに来て確信する。

 この2人は、あえて今まで“アルスに出会う以前の状態”で挑んできたのだと。


 まるで無知な自分へ教育でもするように。


 今のミライとアリサの姿こそ、自分が悪だと断罪しようとした“学びと成長”の結果。

 アルス・イージスフォードによって引き出された、生徒会の恐るべき双竜ッ。


「「––––血界魔装ッ!!!」」


 2人の背後に、伝説のドラゴンの姿が蜃気楼のように浮かんで見えた。

 魔力に至っては完全にマチルダを超えている。


 竜は、竜王の下へ集まるのだ––––


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