第240話・動き出す国家と計画
「あぁ、それで間違いないんだな? なら君は追って私に連絡しろ! 対外情報部からも魔力信号を取り寄せて検証するように」
王立魔法学園で生徒会と風紀委員が火花を散らしている頃、アルト・ストラトス大使館に勤務している駐在武官ジーク・ラインメタル大佐は珍しく息遣いを荒くしていた。
ミリシアにも漏れないよう設計された、秘匿回線を用いての大陸間通話だった。
電話口の向こう––––国家安全保障局課長からの報告に、思わず眉をしかめる。
《了解です。しかし間違いありません大佐、これは先の我が大陸内大戦で使用された神器。『超巨大移動要塞ネロスフィア』、それと同じシグナルです》
「まさか同型要塞がここ新大陸で建造されていたとはな……、仮にネロスフィアⅡと命名して、遂にルールブレイカーも重い腰を上げたということか」
この状況に陥ったのはおよそ3時間前……。
ミリシア海洋大気庁が、王都西方150キロの山脈で地震と魔力シグナルを感知したことに始まった。
震源地がやたらと浅いことに疑念を持ったラインメタル大佐は、すぐさま安全保障局へ報告。
すると、向こうからは大戦で使用された神器と同じシグナルだと返事が返ってきたのだ。
《大佐……もしこれが超巨大移動要塞だとして、目的はなんだと思われますか?」
「1ヶ月前の王都襲撃は、我々と竜王級によって見事に阻止された。完全な失敗だ……なれば敵は目的を変えたと見ていい」
《戦略目標の変更……、ミリシア全土の制圧ですか》
安全保障局課長の声を聞きながら、大佐はデスクでひたすらメモを走らせつつ返答する。
「それは段階であり過程だ、本当の目的はファンタジアで失敗した『神結いの儀式』だろう。愚かな大天使が神に成り代わろうとする忌まわしき計画だ」
《そんなこと……本当に可能なのですか?》
「可能だからこそ動いたんだろう、ここからは総力戦になるぞ」
大佐は引き出しから地図を取り出した。
それは、在ミリシア大陸派遣軍の分布図だった。
「この大陸には現在我が軍の1個機甲師団、3個歩兵師団、2個砲兵旅団、1個特別砲兵群が駐屯しているが……」
《足りないでしょうね……、少なくとも先の大戦では400個師団による総攻撃で止めた神器ですから」
「策はある、ミリシア近海にちょうど我が海軍の主力艦隊が来ているだろう? 超弩級戦艦8隻からなるあの艦隊なら……ネロスフィアⅡに対抗できる」
《46センチ砲ですか……、確かに日本技術の最高峰であるアレならば効果も見込めますね。しかし国防省はそれだけでは足らないと言いそうな気もします》
課長の言葉は、どこか煮え切らない。
それを、大佐は真正面から詰めていく。
「国防省と本国政府に私から進言しておく、通常戦力による儀式阻止が不可能な場合––––“大陸間弾道ミサイル”の使用も検討すべしとな」
《なっ!? V5弾道弾ですか? しかしアレに搭載する弾頭は1メガトン級の水素爆弾ですよ! それでは同盟国であるミリシア本土が焼け野原に……》
「わかっている、あくまで最終手段だ。戦略ミサイル軍にはスタンバイだけしてもらう。だがもし神が誕生してしまうようなら……弾道弾攻撃は自動的に行われるだろうな」
《大佐はいかがしますか? 今なら本国に大使と一緒に帰国できますが》
「私と大使が戦場から逃げたとあっては、ミリシアに失望されるぞ課長。それに私は核兵器より強力な人間を知っている」
《伝説の竜王級……ですか》
「そういうことだ、彼ならば……訪れる最悪のバッドエンドを叩き潰してくれるかもしれない。私はそれに賭けてみたいんだ」
《……わかりました、軍は今よりデフコン3へ突入するでしょう。在ミリシア駐留軍にもじきに全軍出動命令が下ります》
通話が終わる。
電話を置いた大佐は、ふぅっと息をついた。
「神とその残滓は……、なんとしても全て消し去らねばならない。絶対に––––絶対にだッ」
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