第239話・好きだからこその差があるのよ
「アナタが来るなんて予想外だったわねぇ、生徒会書記さん。しかも……このわたしを三流テンプレですって? 言ってくれるじゃない」
突如現れたミライへ、マチルダは明らかな苛立ちを込めて振り返った。
対する彼女は、腰に手を当てて意にも介さない。
俺が今朝の戦闘で、完全な”魔力切れ“を起こしているのにも気づいてくれているようだった。
「えぇ三流よ、いや……ひょっとしたら四流かも。そんな使い古された不純異性交遊の検挙なんざ見て誰が喜ぶってのよ」
「正義に基づく行動は共感を生む、それがわからない? わたしは風紀委員として当然中の当然とも言うべき義務を果たしているだけよ。たかだか同人作家ごときが偉そうに……」
「作家だからこそよ、わたしはあらゆるストーリーを嗜む文化人としてあなたのシナリオを三流と断じてるの。まっ、年間読書量が100冊にも届かないお子様には理解できないでしょうけど」
マチルダに正対するミライへ、風紀委員の半数が銃口を向けた。
金属の無機質な音が響く。
「アナタがた生徒会はずいぶんと自惚れてるわね、一応言っとくけど風紀委員長であるこのわたしは、学内におけるあらゆる規律の乱れを取り締まれるのよ? この状況でイキっても痛い目見るだけだわ」
こちらを一瞬見たミライが、左目をパチリと閉じた。
それはアイコンタクト……、俺は風紀委員たちが持つMP40をもう一度見てから肯定の意味を込めて右目を閉じる。
「銃の威力が凄まじいのは知ってるでしょ? これだけの至近距離で、しかもフルオートで撃たれたら……いくら魔導士だろうと骨折くらい簡単にさせられるわよ」
「知ってる、でも残念だったわね風紀委員長さん。そこも含めてあんたは三流なのよ」
「ッ……! どういうことかしら?」
「わたしはそこに座ってる生徒会長が大好きなのよ、だからそいつが好きなものは片端から調べて、いつも知り尽くしてる」
「知り尽くしてなんになるのかしらぁ? ハッキリ言ってリソースの無駄使いよねぇ? なんの実にも金にもならない駄知識じゃない」
「それがなるのよ、そしてそれがあんたとわたし達の差。好きかそうじゃないかの絶対的な差」
「言ってみなさいよ、その差ってやつ」
ミライはニヤリと笑い、MP40を指差した。
「あんたたちのその銃が、まだコッキングされてないって言ったら?」
「ッ!!」
風紀委員たちが一斉に手に持つ銃を見た瞬間、俺たちは即座に動いた。
銃は初弾がチャンバーへ送られており、なおかつハンマーがコックされていなければ撃てない。
普段から扱っていなかった弊害だろう、連中の銃はただマガジンが挿さっただけの鈍器だった。
さっきのアイコンタクトは、それの確認である。
「ほっ!!」
すかさずハイキックで、向けられていた銃を弾くミライとアリサ。
同時に、慌ててコッキングした連中へはユリアが対応。
一気に肉薄して、踊るような連撃で銃を手から引き剥がした。
「このっ!!」
マチルダが魔力を纏おうとするが、そうはさせない。
俺が足元を勢いよく踏むと、床がひっくり返って長身のショットガンが宙に飛び出す。
それを空中で掴むと、片手で縦に持ってコッキング。
流れるような動作でマチルダへ銃口を向けた。
彼女は魔法形成を中止せざるを得ない。
「形成逆転だ、悪いね……ウチの生徒会役員は銃にやたらと詳しくてな」
歯噛みするマチルダは、忌々しげにミライを見つめていた。
「クソッ……! 役立たず共が」
「それって自分も含めて? あと……わたしはまだアルスに100%告白し切れてないの、今はまだだけど風紀委員ごときが邪魔しないでくれる?」
「言うじゃない書記風情が……ッ、ランキング8位でくすぶってるくせにずいぶん偉そうねぇ」
「えぇ……じゃあちょうど今は良い時期ね。ウチの会長と副会長が出るまでもないわ。マチルダ・クルセイダー。アンタに公式戦を申し込む」
薄ら笑いを未だ浮かべるマチルダは、吐き捨てるように口開いた。
「上等よおバカ同人さん! たかだか8位の分際で、3位のわたしに勝てると思わないことね!」
唾を撒き散らして叫ぶマチルダへ、背後から声が掛けられた。
「何勘違いしてんの? その公式戦––––わたしも参加させてもらうから」
ユリアと共に風紀委員を制圧したアリサが、冷ややかな目つきでそう言った。
ここに来て、初めてマチルダに焦りの表情が見えた。
俺が朝レイドバトルをされたように、公式戦期間中はランキング上位者へ“複数人で挑める”。
この制度を、今度はこちらが使う番だった。
MP40はオープンボルト方式なので初弾を送り込む必要はないですが、コッキングしてないとどの道撃てません。
普段銃を扱い慣れていない人間と、アルスに感化されて影響を受けまくった人間の差です。




