第238話・風紀委員長マチルダ・クルセイダー
風紀委員長マチルダ・クルセイダー。
学園ランキング第3位にして、1年生ながら公式戦を連戦連勝、勉学においても学年トップであることから順位を急速に上げてきている新星だ。
本来なら生徒会長選挙に出てきてもおかしくなかった人材だが、噂によると風紀委員との兼任を嫌って辞退したらしい。
最も、本人は後に後悔したようだが。
俺が聞いている情報はもう1つ––––極度の規律至上主義ということ。
わかってはいたが、今はタイミングが悪い……。
部屋には落ち着いた口調だが、どこか冷ややかな声が響く。
「朝はずいぶん派手にやったものね……、いくら結界内とはいえ300人の生徒相手にドンパチするなんて。とても正気とは思えないわ」
「俺は挑まれた側であって、糾弾される覚えはないぞ。文句ならカルロスあたりにでも言ってくれ」
「もちろんアイツも取り締まりの対象よ、でも世の中言うじゃない––––喧嘩両成敗って。つまり生徒会長であるアンタも対象ってこと」
そこまで言った時点で、マチルダに静かな怒りを込めた声が降った。
「規律を守る風紀委員長とはいえ、仮にも1年生に過ぎない貴女が2年の会長に敬語も使えないのですか? 規律以前にまず常識を守ってみてはいかがでしょう」
吹き飛ばされた扉の残骸を一瞥したユリアへ、マチルダはくだらないと言いたげに息を吐いた。
「アンタも随分変わったわねぇ副会長、わたしが入学した当初は誰も寄せ付けない孤独の天才じゃなかったっけ?」
「自惚れと驕りに満ちていた時代の話です、わたしは会長と出会い、戦い……自らを律することを覚えましたので。規律と法律を混同する貴女とは違います」
「ふぅん、でもその会長も……たかだか会計に乗られっぱなしじゃぁ形ナシよねぇ」
この状況においてもまだ俺に座っていたアリサは、ようやく床に降りてマチルダを見た。
せっかくご機嫌だったのに、憩いのひとときを邪魔された彼女からは炎のように不機嫌オーラが噴き出ている。
「なんか悪い?」
「フフッ、もちろん。不純異性交遊を見つければ悪いと叫ぶのは風紀委員のテンプレよ? 学校はあくまで学びの場、恋人同士がイチャつく場所じゃないわ」
「ドアを爆破して突入してくる人間に言われたくないね、アルスくんの方針で生徒会室には鍵が掛かってないの知らない?」
「知ってて爆破したまでよ、わたし……風紀の乱れを正すのに手段は基本選ばないの」
明らかな挑発を繰り返すマチルダへ、アリサは目色を変えた。
それは比喩表現などじゃなく、本当に髪の毛から瞳までアメジストを思わせる紫色へ変貌した。
一目でわかる……本気の『血界魔装』だ。
「じゃあわたしも手段とか選ばないよ? ここにいる風紀委員全員を叩き出すなんて簡単だし」
「想定内よぉ、構えっ」
ジャキンッという音と共に、上着で隠されていたMP40サブマシンガンがアリサへ一斉に向けられた。
あれは確か折り畳みできるストックで、それゆえに冬着などへ仕込ませられるのだ。
「この学園において銃の使用が許されているのは、何も生徒会だけじゃないのよぉ? わたしたち風紀委員も秩序維持のためにマシンガンくらいは持てるんだから」
これは不味いな……。
入っているのは非殺傷弾だろうが、こんな超至近距離で乱射されたらこっちも無傷では済まない。
普段なら俺がなんとかしなきゃならん場面だが、
今自分を襲っている一番キツい”現実“がある、ユリアもアリサもそれに気づいてくれたのか戦闘モードで前に出た。
さて……一体どうしようかと思案していたところで、マチルダの背後に影が現れた。
「あーダメダメ三流ね、台詞回しがテンプレ過ぎてくどい。そんなんじゃあ今どき誰も読者付かないわよ––––風紀委員長さん」
マチルダが振り向く。
「アナタ……、生徒会書記の––––」
「ピンポーン。正解、ってか不純異性交遊が何だか知らないけど、わたしそういうルールで縛ってくる展開って好かないのよねぇ」
現れたのは、染めたての茶髪をポニーテールにしたあくまで明るい雰囲気を装う少女。
俺の親友––––ミライ・ブラッドフォードだった。
「悪いけど、そこに座ってる生徒会長––––わたしも頂く予定なんですわ」
舌なめずりしながら、ミライは不敵に笑った。




