第236話・アルスVSドラゴンスレイヤーズ
「そんな! ありえないッ!!」
学園を舞台とした戦場は、混乱と狂乱に包まれていた。
必死で追い縋ろうとする爆炎と爆発が、俺の遥か後方で置き去りにされて大気を揺らす。
「相手はたった……たった1人だぞ!!! こっちは300人以上いるのになぜ攻撃が1発も当たらない!!」
カルロスの怒号が響く。
地上と空中から、囲うように、覆うように魔法陣が次々展開される中を俺は超高速で駆け回っていた。
追尾は決して甘くないが、こちらを捉えるには速度も追従力も圧倒的に足りない。
俺は校舎の壁を砕く勢いで蹴り、集団のど真ん中へ拳を叩きつけた。
「ぐあぁッ!!」
「きゃあッ!?」
固い地面が1発で液状化し、数十人を上空へ吹き飛ばした。
人間が紙吹雪のように宙を舞う。
「こっのぉ!!!」
まだ砂塵が飛び散る中、近接戦闘に覚えのありそうな女子生徒が突っ込んでくる。
が、
「ゴッフッ!!?」
剣撃を避け切ったついでに、軽く脇腹を蹴った。
こちらはソッと触れただけのつもりだったのだが、女子生徒は弾丸のように飛んで体育倉庫を木っ端微塵にする。
「委員長が隙を作ったぞ! 今だッ!! 集団爆裂魔法をくれてやれ!!!」
おや、仲間の犠牲は計画内だったらしい。
正面に現れた複数の魔法陣から、50人掛かりでの爆裂魔法が放たれる。
60発の多弾頭––––しかも威力は1発あたり手榴弾40個分。
ヒュドラを連想するそれらは、一斉に俺へ飛翔してきた。
すぐさまモード切り替え。
『魔法能力強化』を発動した俺は、右腕をサッと振るう。
「『イグニール・ヘックスグリッド』!」
最強の防御魔法を展開。
六角形の焔が現れ、全ての爆裂魔法をアッサリ受け止めた。
「嘘だろ……ッ!」
完全に読み違ったのだろう戦況に、顔を歪めるカルロス。
俺は再びモードを切り替えた。
「『身体能力強化』」
靴裏で大地を蹴った。
連中からはまるで消えたように見えただろう。
竜王級のエンチャントは、ただの強化だろうと魔人級のそれを遥かに上回る。
本気のスピードを出した俺を、ドラゴンスレイヤーズは捉えることも出来ず蹂躙された。
拳撃の爆発が発生するたび、連中は止めることもできず空を舞い、校舎に叩きつけられる。
陣形らしい陣形を組んではいるが、それは相手が常識の範囲の敵である前提だ。
こっちからすれば、いつでも中央のカルロスを叩き潰せるほどに脆弱。
悲鳴と衝撃が入り乱れ、ドラゴンスレイヤーズはカルロス1人を除いて完全に沈黙した。
「クッソ!! クソクソクソッ!! もう陣形なんざ関係ねえ!! うおあああああぁぁあああああああッ!!!」
仲間を壊滅させられたことで、半ばヤケクソになったカルロスが剣を抜いて走り込んでくる。
振りも早い、フォームも整った素晴らしい斬撃だった。
––––ガキィンッ––––!!
「なっ……ぁっ!?」
鋭利な剣は、俺の脳天に届かず金色のオーラに阻まれてへし折れた。
中央から、見事にポッキリと。
表情を青くするカルロスへ、俺は教えてやる。
「言い忘れてた。互いに実力差があまりにあり過ぎると、纏うオーラだけで殆どの攻撃……実は防げちまうんだよ」
「なっ、なんだよそれ……!! じゃあお前! 最初から俺たちの攻撃なんて効かなかったってことかよ!!」
「そうなるな」
「ッ!!! そんなの、そんなの認められるかァアア!!!」
剣を捨てたカルロスは、超至近距離で俺に爆裂魔法をぶつけた。
普通なら内臓が破裂してもおかしくないが、身体を覆う魔力の壁で威力の9割超が無効化される。
俺にしてみれば、軽く腹をつつかれた程度の衝撃だ。
「チート……!! こんなのチートだ!! こっちの攻撃は一切受け付けずにノーダメだと!? ふざけんな!!! 俺がどんな思いで今日まで過ごしてきたと思ってやがる!!!」
「たった1人に300人掛かりで挑んできたヤツに––––」
俺は拳を握り、既に涙目のカルロスへ下から強烈なアッパーをお見舞いした。
「言われる筋合いはないな」
「アガッ……!!?」
すぐさま顔を掴み、吹っ飛ぶことも許さず顔面を地面へ叩きつけた。
「カッ!?」
「今回は一応ルールに則ってのことだから糾弾しない、300人だろうと違反は何もないからな。だが––––」
髪をつかみ上げて、俺の顔と正対させる。
「ヒッ!!」
「挑んで負けた事実は消えない、後で裏サイトにでも書いとけ。ドラゴンスレイヤーズ完全敗北の報告をな」
「はっ、はい……!! ごめんなさいッ! わかりました! 誠意を込めて書かせていただきますッ」
「よろしい」
俺はそのまま恐怖で気絶してしまったカルロスから手を離すと、結界内の修復を開始した。
やれやれ……とんだ朝になったな、まぁウォーミングアップにはちょうど良い。
なにせ、本番はこれからなのだから。




