第233話・マスターの過去
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「ぷっはっはっはっはっはっは!!!! マジウケる、グラン兄ちゃん超ダサいんだけどぉっ!! あっはっはっはっはっはっはッ!!!!」
亜麻色の長い髪を持った少女が、非常にラフな格好で大笑いしていた。
このまま死んでしまうんじゃないかと思うくらいにベッドで笑い転げているのは、マスターの妹にして俺の義妹––––カレン・ポーツマスだ。
ユリアがマスターへ勝利した戦闘の直後に、彼女はナイトテーブルへ帰宅していた。
俺たちが地上へ上がると、キッチンで夕飯の準備をしていたのだ。
「ユリア姉さん!? なになに何事!?」
カレンはユリアがいることに驚いていたが、試験に全て合格したこと、そして時間がもう遅かった事もありミライと共に2人は足速に帰宅。
マスターもユリアに制服とシフトの準備をするとのことなので、食事も早々に裏へ引っ込んでしまった。
よって、この騒々しい義妹が俺の部屋へ乗り込んできたわけである。
彼女がさっきから寝っ転がっているのも、俺のベッドだ。
「はーおっかしい、性格丸くなっても中身は全然変わってないのねぇ」
「なぁ、俺はマスターについてあんま知らないんだけど……昔はどんな人だったんだ?」
「えっ、最悪よ最悪。大英雄の名にかまけて迷惑行為や違法行為に暴走運転、挙句にアルト・ストラトスの大使館にまで乗り込むくらいの大バカだったわ」
「ウッソだろ……」
あのいつも大人らしく毅然としていて、ほんわかした空気のマスターが暴君!?
驚く俺の顔が面白かったのか、再びベッドの上を転げ回るカレン。
「マジもマジ、ラインメタル大佐っているでしょ? 当時全盛期だったあの人にボコられてから急に大人しくなったのよねぇ……なんか部下の人に諭されたっぽいけど」
「もしかして……この喫茶店を開いたのも?」
「そっ、なんか言われたらしいわよ––––『俺と同じく理不尽に追放された子を救って欲しい』って。んでもってお兄ちゃんは無事冒険者を引退、来たる誰かを待つために喫茶店開いたってわけよ」
「その来たる誰かが、もしかしたら俺だったのかな……」
「多分ね、だからその大佐の元部下? の人に一応感謝しといたらー?」
適当にそう言って倒れ込むカレン。
っつか、さっきからTシャツにパンツ1枚でゴロゴロ転がるのはやめていただきたい。
いくら身内でも目のやり場に困る……ッ。
それと、ベッドに髪と匂いがついて翌日アリサに疑われるのは俺なんだぞ。
「そういえばさ、明日からなんでしょ?」
唐突なカレンの質問に、俺は座りながら答える。
「明日? あぁ……『大公式戦トーナメント』か。年末最後のイベントだからみんな張り切ってるよ」
『大公式戦トーナメント』。
これは文字通り、学園ランキングの変動する公式戦を学園にいる全生徒が活発に行う期間を差す。
そんでもって最後には上位勢でトーナメント戦を行うのだが、俺は別に特段盛り上がっていなかった。
「なんか冷めてるわね、1位として防衛戦頑張るぜ! くらい言ったら?」
「いやー……っつてもなぁ、俺とタメ張れるの生徒会の身内くらいだし」
王立魔法学園の生徒は天才に秀才揃いだが、俺の率いる生徒会はその中のトップで構成されている。
俺へ挑む前に、彼女たちを突破できなければ1位など那由多の彼方。
よって、俺はいつも通り過ごしていればいい。
「アルス兄さん……それって」
起き上がったカレンが、青い顔をして俺を見ていた。
「普段味方のミライ姉さんやユリア姉さん……生徒会役員も含めて、多分全員がアルス兄さんを集中狙いするわよ」
「あっ……」
俺は口にしておきながらつい忘れていた事実を、今さらながら思い出した。
ユリア、アリサ、ミライ––––こいつら全員、俺から”勝ち“を奪おうとしてるんだった……。
どうやら、俺に平穏は訪れないらしい。




