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第232話・ユリアVS大英雄グラン・ポーツマス

 

「ちょ、マスター!? 今までそんな形式でしたっけ!?」


 これに困惑したのはミライだ。

 どうやら彼女の時は、俺と同じく等級判定と軽い魔法の披露だけだったらしい。


 それが今回、なんとマスター直々に試すということで俺もさすがに驚く。


「……本気ですか? マスター」


「本気だとも、それは君が何よりわかっていると思うがね」


 この言葉に込められた意味を、理解できないほど鈍くはない。

 俺は1ヶ月前の大魔導フェスティバルを思い出した。


「俺や関係者を狙って、いつ刺客が来るかわからない……だからこそ、店の戦力に間違いがあってはならない。そういうことですね?」


「その通りだ、さぁユリアちゃん……どうする? 君はあのアルスくんが戦いにおいて唯一認めた人間だと聞いている。だからこそ試してみたい、この目で確かめたい」


 これに対するユリアの対応は、極めて簡潔だった。

 彼女の右手に、宝具『インフィニティー・オーダー』が具現化したのだ。


「大陸に名を馳せる大英雄と干戈を交えられるなんて、わたしにとっても僥倖(ぎょうこう)です。わかりました……エーベルハルト家の名に賭けて––––その申し出を受けましょう」


 まさか過ぎる展開に、俺もミライも未だ若干追いつけていない。

 ただわかるのは、これが明らかにバイトの試験のレベルを超越しようとしていることだった。


 ユリアが魔人級魔導士なら、対するマスターも魔人級魔導士である。

 ましてや、教科書にも載る偉人と謳われし大英雄にして全冒険者の元トップ。


 互いに距離を空け、武器を構える……。

 異様な緊張感が張り詰めた。


「そういえば言い忘れていたよ」


 思い出したように、マスターが視界の奥で呟いた。


「僕は長い隠居で力の使い方を忘れていてね、つい数月前までは魔人級魔導士を名乗るのも憚られた」


「……どういうことですか?」


「簡単さ、フェスティバルで偽天使と戦った時の僕は––––」


 マスターが足を交互に前へ出す。

 それはやがて全身が歪んで見えるほどの速度まで加速し、かざした剣が空間を引き裂くようだった。


「力の10分の1も出せていなかったん––––だッ!!」


 ユリアが超高速の剣撃をかわせたのは、本当に紙一重のことだった。

 それほどまでにマスターは速く、さらにターンと同時に焔を纏った。


「ッ!!」


 再び振られた剣を、ユリアは直上へ跳ぶことで避けた。

 風圧でミライの髪がなびき、大木が揺れる。


「では大英雄グラン・ポーツマスさん、わたしが貴方の……記念すべき復帰戦の相手ということですね」


「そういうことだ」


「フフッ、それは光栄ですね、でも––––」


『インフィニティー・オーダー』が分裂し、2刀短剣モードへ変わった。

 着地したユリアが、魔力を放出する。


「わたし、こう見えて天才ですので」


 ユリアの速度はマスターのさらに上を行っていた。

 例えるならば、血界魔装を発動したミライに匹敵する速さ。


 ––––ギィンッ––––!!!!


 1回目のぶつかり合いは一瞬で、その後に数えるのもバカらしくなる剣舞を10秒ほど双方打ち込み合う。

 俺は一応数えて376回、隣では動きを追い切れていないミライが目を回していた。


 自分が竜王級なのでつい忘れがちになるが、本来魔人級魔導士はたった1人で5個魔導士師団(5万人)に匹敵する力を持つ。

 その魔人級の中でも、ユリアは自他共に認める最強––––


 だが対抗するマスターも、あの大英雄と言われし実力者だ。

 既に1000回目となる剣舞で、ようやく鍔迫り合いが発生した。


「久しいですね……! この感覚、最近は雑魚ばかりで熱さというものをすっかり忘れていましたっ」


「僕もだよッ、もっと見せてくれたまえ! 竜王級が認めし天才魔導士よ!!」


「フフッ! 嬉しいです! では遠慮なく!! 星凱亜––––『彗星連斬』!!!」


 あっ……。

 マスターの動きも常人離れしているが、ユリアの速度が目に見えて上がってきている。


 これは……。


「ぬぅうッ……!」


 攻めていたはずのマスターが、徐々に防戦へ転じている。

 そこを見過ごすはずもなく、ユリアは剣撃のスピードを一層加速させた。


 加速、加速、加速、加速。

 それはやがて、あのカレンですら超えた領域へ到達した。


「大英雄グラン・ポーツマスさん、貴方は確かにかつてこの大陸で最強でした。しかし––––」


 とうとうユリアの攻撃が、徐々にマスターへ届き始める。


「その当時のわたしは……まだ偉大な方と出会っていない、ハッキリ言って未熟者でした。でも今は違う」


 防御を弾かれたマスターも、しかしただでは食らわない。

 スケートリンクを滑るように距離を取り、剣先へありったけの焔を纏った。


「なら僕に見せてくれたまえユリアちゃん!! 魔獣王を討滅したこの一撃––––防げるものなら防いでみろ!!!」


 マスターの全身が焔に包まれたかと思うと。

 砲弾のようにユリア目掛けて突っ込んだ。


「『イグニール・ソニックブラスト』ッッ!!!」


 音速を突破したことを示す、ソニックブームの爆音。

 派手にユリアへ直撃した技は、莫大な火災の奔流となって森を飲み込んだ。


 俺はミライを守るために展開した障壁から、”勝負の結果“を見た。


「グラン・ポーツマスさん……今のわたしは、竜王級アルス・イージスフォード生徒会長以外には––––絶対に負けないのです」


 マスター渾身の一撃は、ユリアが持つ片方の剣で滑らすように威力を流され、爆圧なども全てが後方へ。

 そしてもう片方の剣が……ピッタリ首筋へ肉薄していた。


「チェックメイトです、大英雄さん」


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― 新着の感想 ―
[良い点] いや、草 流石にこれは黒歴史行きですよ
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