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第229話・2人の恋人

 

 ––––12月。


 あの大魔導フェスティバルから1ヶ月が経った。

 季節は冬真っ盛り、気温は急降下の上に雪までチラついているときた。


 暖房用魔導具の効いた室内で、俺は今日も放課後の仕事を––––


「会長は今日わたしとの予定があるんです! 貴女も後発の身なら少し弁えてはいかがですか!?」


「後発だからだよ! 遅かった分いっぱい思い出作らなきゃダメじゃん!! ユリは既にいっぱいデートしてるしこれでもイーブンだよ!」


 全くできていなかった。

 右からユリア、左からアリサが、互いに大陸トップクラスのステータスで引っ張り合ってくるのだからペンなど持てようはずもない。


「フェスティバルの日に絶好のシチュエーションを譲った恩を忘れたのですか? ここでこそ恩返しするのがスジというものでは?」


「そういうこと本人が言うもんじゃないと思う! さぁユリ! 貴族なら観念してアルスくんを渡して」


「嫌です、絶対に渡しません」


 あのー、俺を挟んで取り合うのやめない?

 まぁこのシチュエーション自体悪い気はしないが、このままだと日付が変わるまで続きそうなので俺はスッと立ち上がる。


「お前ら––––」


 さすがにやり過ぎたと悟ったのか、2人がビクッと震える。

 俺は王立魔法学園の生徒会長、こういう状況を想定していなかったと言えば嘘だ。


 キッチリ答えを用意してある。

 誰も不幸にしない、全員を幸せにするとも言うべき言葉。


「どっちも俺の恋人なんだから、どっちにもちゃんと付き合うよ。だからこの仕事だけでもやらしてくれ」


 両方の頭を優しく撫でながら俺はそう呟く。


 お2人共に納得のいく答えだったのか、速攻で頷いてくれる。

 そこからはいつも通りで、来学期の予算運用について試行錯誤するアリサ。


 自慢の腕で紅茶を淹れるユリアという、いつもの光景に戻った。


 ちなみにミライは、今日バイトのシフトがあるため帰っている。

 今ごろ、接客スマイルで客をもてなしている頃だろう。


『いつか––––自信をもって、アルスに正面から言える、アンタを求められる人間になる! だからさ……ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ待ってて欲しい』


 俺の脳裏を、アルテマ・クエストの時に言ったミライの言葉が蘇る。

 彼女にとってのいつかとは、一体いつのことなのだろう。

 大魔導フェスティバルで、残った時間をアリサに譲ったあたりまだなのだろう。


 ひょっとしたら来年––––または卒業後、もしかするともっと先かもしれない。


 いずれにせよ、こっちから催促することでもない。

 彼女の決心をジックリ待とうじゃないか。


「はい、どうぞ会長」


「あぁ、悪いなユリア」


 ちょうど渡された暖かい紅茶を口に含む。

 まぁどのみち、年末はとても忙しいのだ。

 既に2人も恋人作っちゃった訳だし、まずは彼女たちと真剣に向き合って––––


「あっ、そうだ会長」


「ん?」


 唐突な声に、俺はカップへ口をつけながら喉で返事する。


「わたし––––今度から会長のお店で“バイト”したいと思ってるんですよ」


 この言葉に、アリサは会計の数字を3桁間違えて記入し、俺は思い切り紅茶をむせた。


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