第228話・アリサ・イリインスキー
「諸々お疲れ様、アルスくん……飲み物持ってきたよ」
花火に照らされたツーサイドアップの銀髪は、まるで煌びやかな白銀のよう。
向けられた青い瞳に吸い込まれかけた俺は、すぐさま”気付き“を口にする。
「キール騒動以来だな……、元気っ娘スタイルじゃない。“本当の性格”のお前と喋るのは」
「うん、そう……だね。わたしは君の知ってるとおり人と喋るの本当は苦手ですから……。わたしなんかにミライさんみたいな大役はできないし」
元気スタイルとはかけ離れた口調。
普段と違いすぎるギャップは、相変わらずこっちを驚かせる。
「はい、どうぞ」
渡されたマグカップに入っていたのは、冷えてきた夜にピッタリのショコラだった。
口にすれば甘く、ほろ苦い……まるで––––
「アルスくんはさ……、恋ってどう思ってますか?」
「口調が変わっても直球なのはいつも通りだな、でも恋か……」
花火を見上げながら、暖かいショコラを口に含む。
「家族を築き上げる過程に存在する、実体なき実体験」
「面白い解釈だね……、やっぱりアルスくんはとても変だ」
「その変人に惚れたのは、一体どこの誰かな?」
「ッ!!?」
アリサがカップを落としかけて慌てる姿は、非常にわかりやすかった。
今まで何度も言ってきたが、俺は鈍感系を名乗れるほど鈍くない。
だから、遠慮なく彼女のこれまでのあらゆる言動に頬を吊り上げ考察する。
「もう知ってるぞアリサ、お前……女子にしか興味ないみたいな素振りしといて、実際かなりの恋愛脳だろ」
「ウッッ!!」
「以前お前は俺にユリアとミライ、どっちの下着が見たいかと聞いた、なぜか。答えは簡単だ––––どちらか答えれば俺の好みの下着をお前はノーダメで知れるからだ」
「はうぅッ!!」
「さらに言えば、ファンタジアでユリアと一緒に俺を尾行したのも、可能ならば将来の参考にしたかったから。あたかもユリアに付き従う素振りをしてな」
「ぅ……ッ」
完全に黙り込んでしまったアリサは、10秒ほどしてようやく口を開けた。
「全部……お見通しでしたか、流石ですね」
「当たり前だろ、俺を誰だと思ってる」
カップの中身を飲み干し、俺は彼女に正対した。
「王立魔法学園の生徒会長が、他の誰より役員のことを知らなくてどうする」
「本当に凄いよ……、全部正解だ。わたしはキールの騒動で命を救われたから君に惚れたと思ってた。でも実際は違った」
アリサもショコラを飲み干して、俺に向かい合った。
「わたしは初めて会った瞬間から––––“あなたが好きでした”。けれど、それに気づくのに随分と遅れてしまった」
それは独白であり、彼女のこれまで行った行動の答え合わせだ。
同時に一言一言を発するたび、覚悟が強まっていくのを感じた。
「わたしは願っていたと同時に最初からわかっていたんですね……、あなたが––––アルスくんがわたしを母国の鎖から救ってくれると」
「だから最初に挑んできたわけだな、初めて会った……学園の演習場で」
「そう、きっと試したかったんだと思います。この人なら––––あの伝説の竜王級なら、こんなどうしようもない嘘つきでも助けてくれると」
「なら、期待には添えたかな?」
俺の声に、アリサはニッコリと笑いながら続けた。
「えぇ、そしてやっと気付けました。わたしは––––アルスくんが好き。とっても大好き。死んじゃいそうなほど、焼き切れそうなほど、全てを捨て去る覚悟をしそうなほど、大好きで大好きで仕方ないっ」
もはや我慢できなくなったアリサが、俺の胸に突っ込んだ。
想いの体当たりと言っても良いそれを、がっしり受け止める。
「アルス・イージスフォードくん、こんなどうしようもない嘘つきが……今日やっと正直に全てを吐き出せた。ちょっと迷ったけどね」
「なんでだ? お祭りに花火に屋上––––テンプレかっつーくらい上等なシチュエーションだろ」
「ううん、わたし……今日あんまり活躍できなかったじゃないですか? ファンタジアのユリみたいに街を救った訳でも、ミライさんみたいにアルテマ・クエストをした訳でもない……ただ嘘つきが正直になっただけなんですよ?」
「別に良いじゃん、それで」
弾かれたように、胸元から俺をバッと見上げるアリサ。
「ずっと迷ってたんだろ? ずっと考えてたんだろ? 裏で頑張ってたの……俺は全部知ってるぞ。今お前の髪が紫色になってないのが証拠だ」
以前のアリサなら、感情の抑揚で勝手に血界魔装が出ていた。
けれど今はもう違う、彼女は––––
「今日のために必死で制御の練習してたんだろ? 隠さずに、迷わず本当の性格出して––––勝負を挑みに来たんだろ!? それだけで十分わかるんだよっ」
「ッ……!!」
「確かにお前は嘘つきかもしれないけど、俺はそんな所を含めてアリサ・イリインスキーという人間だと認識している。大好きだと思っている! この気持ちに“嘘はない”!」
「ぐすッ……! ほんっ……とう!? エグっ、嘘じゃ……ないんだよねッ!?」
「あぁ本当だ! お前は俺の家族であり、“特別”だ! これに偽りなんて––––どこにもないんだっ!」
俺はアリサの告白を、嘘偽りなく正面から受け止めた。
暖かくて柔らかい、とっても可愛い白銀の少女は……改めて俺と関係を築き直した。
恋人という、“真実”の関係へ––––
本話で大魔導フェスティバル編は完結となります。
いつも読んでくださっている方、応援していただいている方には格別の感謝を……。
もうご存知のとおり、アリサの持つテーマは“嘘”。
人間善かれ悪かれありますよね。
そんな葛藤を具現化したのが、彼女というわけです。
キール編に続いて、この告白回で一応それら描写を描けたのでとりあえずヨシとします。
さて、次章はいよいよ【ルールブレイカー決戦編】。
大天使率いる闇ギルドが、信じられない計画を実行に移すことで物語は1つの区切りへ向かいます。
次話は、執筆完了次第投稿予定です。
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