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第227話・大魔導フェスティバル閉幕

 

 招かれざる客は退けた。


 ––––午後5時55分。

 大魔導フェスティバルもいよいよ終盤、来たるラストに向けて大勢の来賓が、この学園から溢れんばかりに集まっている。


「お疲れ様でした、会長」


 学園の屋上に呼び出された俺は、そこで待っていたユリアから労いを受ける。


「結界内の破損箇所を全部直して、王都中の人間の記憶操作までしたから……さすがに疲れた」


 見下ろす王都の街並みは、朝となんら変わらない。

 俺はフォルティシアさんですら驚嘆するほどの技術を見せたらしいが、全くもって自覚はない。


 あるのはただ、フェスティバルに参加するみんなが楽しい思い出を作る邪魔をさせなかった。

 この喜びだけである。


 でもまぁ今それは置いておこう、問題は––––


「で、ユリア。俺を教師か生徒会にしか入れないここへ呼び出したんだ––––意図を教えてもらっていいかな?」


「えぇ、もちろんです」


 瞬間、ユリアが俺の右腕に勢いよく抱きついてきた。

 小さな体と一緒に、柑橘系の匂いがフワッと漂う。

 えっ、ちょっ……!


「貴方と最高の場所で、最高の景色を見ながらデートしたい。これ以上がいりますか?」


「ッ……! いきなり来たから心の準備できてねぇぞ」


「フフッ、ごめんなさい。でも会長の顔を見たらもう我慢できなくって」


 しばらくネコのように甘えてくるユリアを撫でていると、グラウンドの中央で歓声が上がった。


「閉幕式か、長いようで一瞬だったな……」


 祭りが終わる……。

 わかっていたことなのに、どこか物寂しい気持ちが襲ってきた。


 あの後、マスターたち大人組は何事もなかったようにそれぞれの場所へ戻った。

 ラインメタル大佐は「良い休日だった」と手を振り、マスターは「君の帰りを待っているよ」と言ってくれた。


 フォルティシアさんは、アルト・ストラトスの大使館で泊まってからファンタジアへ帰るらしい。

 俺たち生徒会も、残された仕事などもう殆どない。


「会長、このフェスティバルの締め……覚えてますか?」


「フェスティバル実行委員が閉幕宣言して、確か……」


「そう、最後の閉幕宣言です」


 ユリアが言った直後、グラウンドに設置されたステージに1人の少女が現れた。


 《今年の閉幕宣言は例外中の例外! 生徒会からヘルプで駆けつけてくれた、ミライ・ブラッドフォード書記です!!》


 思わず柵から乗り出す。

 確かにそこには、ミライの姿がある。

 でも確かこの宣言は、実行委員長がするはず––––


「ブラッドフォード書記、本当に頑張ったんですよ。これがその証です」


 何度見ても間違いない。

 フェスティバル実行委員が飾る最後の華に、なんとミライが選ばれたのだ。


「えーコホン、生徒会書記のミライ・ブラッドフォードです。めっちゃ緊張してるけど……これだけ聞きたいですっ! 皆さん––––思いっきり楽しみましたかぁッッ!?」


 ミライの天を割りそうな大音声(だいおんじょう)


 そしてそれに負けない地響きのような大歓声。

 これは……俺たちが守った、俺たちが主催した王国最大の祭典––––


「なら残すことなしッ! 生徒会の一員としてここに宣言します! 大魔導フェスティバル!! これにて閉幕(へいまーく)ッ!!!!」


 ミライがステージで大きくジャンプしたと同時、学園が一気にライトアップされる。


 さらにこの陽が沈んだタイミングで、無数の花火が一斉に王都中から打ち上がった。

 カラフルで彩色に富んだそれらは、上空で様々な絵を浮き上がらせた。


「……綺麗ですね、ブラッドフォード書記がこの大花火を企画立案して通したんですよ?」


「ミライが……?」


「えぇ、何故だかわかりますか?」


 爆弾よりも数十倍心躍る炸裂音の中、隣にいたユリアが明かりに顔を照らされながらこちらを向いた。


「いや……」


 彼女は最高の笑顔で微笑みながら、抱きしめる腕の力をより強めた。


「会長は……これが初めてのフェスティバルだから、主催者として頑張った貴方へ、この最高の景色を送りたかったらしいですよ」


 ッ! なんだよそれ……っ、じゃあフェス実にヘルプ行ったのも全部これを、この光景を見せるためだったのか?

 次々打ち上がるそれらは、たった1発も手抜きが見えない。


 女子っぽく可愛くて、けれど見る者全員を魅了してやまない空に咲く花。

 一言で表現するならそれは––––大満開。


「……会長?」


「あー……、らしくねえ。全然らしくねえ、緊張が解けたらすぐこれだ」


 俺の目には、いつの間にか薄くだが涙が滲んでいた。

 長い準備期間を経てフェスティバルをやり切った達成感、安堵感に加え、完全にミライのヤツにトドメ刺された。


「会長……本当に頑張ってましたもんね、わたしはもちろん––––ブラッドフォード書記もずっと見てたんですよ」


「お前らだって頑張ったよ……っ、慣れない俺の下で––––本当によくやってくれた」


「”貴方だったから“……わたしも皆さんも付いてきたんですよ」


「最後に最高の景色見れたよ、お前やミライにも……お礼言わないとな」


 俺が呟くと、ユリアは名残惜しそうに俺から離れた。


「いえ、最後の大トリが––––まだ残っていますよ。会長」


 そう言うと、ユリアは逃げるように屋上から飛び降りていってしまった。


 大トリ……?

 しばらくして、背後の扉がゆっくりと開く……。


「お祭りお疲れ様……、アルスくん。飲み物持ってきたよ」


 振り返ると、そこにはいつもの白い制服に着替え直した生徒会会計––––アリサ・イリインスキーが、両手にマグカップを持ちながら立っていた。


 その瞳は、––––いつかの時のユリアと同じ。

 “覚悟”で染まっている。


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