第225話・フェスティバル主催者の本気
「さーてお前ら、こんだけ散々暴れ回った挙句に俺を地味〜な役割へ押し込めたんだ。どうなるかわかってるよな?」
俺は一瞥するように、ホムンクルスと天使モドキを見た。
アリサを拘束していたそいつは、すぐさま手にナイフを具現化。
彼女の首筋へ食い込ませた。
「どうなるかだと? 面白い言葉だな竜王級、こいつの命は今俺が握っている、どうなるかはこっちの台詞だ!」
「あーダメ駄目、どう聞いても台詞が三流なんだよ。このフェスティバルの主催者として選ばせてやる。今すぐ逃げるか––––覚悟決めて俺にぶっ倒されるか」
「ぶっ倒されるだと? はっ! なら良いぜ! 望み通りこの女の首元掻っ切って––––」
俺は眼の圧力だけで、天使モドキを吹っ飛ばした。
お綺麗な羽を持った男が、住宅街へ煙を上げて突っ込んでいく。
家屋を3つほど貫いて、かなり奥で止まったようだ。
「アリサ、大丈夫か?」
「うっ、うん……ありがとうアルスくん」
「長期戦で魔力ももう足んないだろ、ここは下がってて良いぞ」
「……わかったっ、お任せするよ––––我らが生徒会長」
安堵の表情を見せたアリサの退避を確認した俺は、ホムンクルスを見下ろす。
「竜王級ッ……!!」
「で、お前はどうするんだ? 大人しく尻尾巻いて帰るか?」
「冗談じゃない! わたしの目的は貴様の能力を奪うこと! ブルーだかなんだか知らないけど! 結界維持で疲れ果てた竜王級なぞ恐るるに足らず!!」
飛び上がったホムンクルスは、両手を広げた体勢から瞳を通してレーザーを撃ち放つ。
––––ガギィンッ––––!!!
俺は放たれたレーザーを、ライフルに取り付けた銃剣で弾くと超音速で肉薄した。
「がっはっ!?」
マッハで打ち込まれた蹴りを喰らい、吐血しながら吹っ飛ぶホムンクルスへさらに追い縋った。
苦痛に歪む顔が見えたので、銃剣を口から喉にかけて貫通させる。
「おごッ……!! ガッ!?」
照準など必要ない。
銃口はホムンクルスの顔へ、固定されているのだから。
「『レイド・スパーク』」
引き金をひくと、先ほどのホムンクルスが放ったレーザーの数十倍太いエネルギーが放出された。
回避不能、絶対直撃のそれは彼女を一瞬で蒸発させてなお王都の数区画を焼け野原にした。
「だ、第5世代が一瞬で……」
驚嘆していらっしゃる博士は置いておき、俺は後方で吹き上がった爆発へ振り返る。
「おのれエェエッ!!! 殺すッ! 貴様は絶対に殺す!! 全身の骨を折って、皮を引き裂いてぶっ殺す!!」
転移魔法で俺の背後へ回り込んできた天使モドキは、右手に魔力を充填していた。
「死ねッ!!」
雷撃が接射されるも、俺の背中には焦げ跡1つつかない。
瞬間的にブルーの出力を上げて、オーラの流れだけで防いだからだ。
「バカな……ッ!」
「気が済んだか? 次は俺の番だな」
叫び声すら上げさせることなく、振り返りざまの回し蹴りを叩きつけた。
銃弾のように吹っ飛んだ天使モドキへ、俺は1秒で追いついて顔面を掴んだ。
「そらっ!」
放り投げた先は結界の境界面。
背中からぶつかったヤツを、まるで接着剤で貼ったように磔にしてやる。
「なっ、動け……ッ。ひっ!?」
再び眼前へ高速肉薄した俺は、銃をスリングで提げながら空中で浮遊した。
「おい、天使モドキとやら……お前ウチの生徒会役員から能力奪うつもりだったろう? ってかアリサのことぶん殴ってたよな? 俺の家族に手出すことの意味……わかってんだろ?」
「な、なんのことだよ……ッ!」
「天使だか何だか知らんが、フェイカー首から下げて散々イキった上でこれとはな」
右手を大きく振りかぶった俺は、ブルーの力を腕へ一気に収束させていった。
「テメェも人の人生めちゃくちゃにするつもりで来たんなら……、当然自分だって人生全部賭ける覚悟で来たんだよな?」
集まった魔力が臨界点を超え、周囲に地鳴りと鐘の音を鳴らす。
天使モドキは、清楚な顔を恐怖で歪ませ失禁していた。
「ほら、ゴミクソ天使––––神にでも祈れよ」
動くことも、逃げることも許さない。
俺の拘束を解くことは絶対に不可能、防御など断じて認めない。
「歯ァ食い縛れッッ……!!」
爆発。
広大な結界内の全てが蒼色に照らされ、拳を打ち込まれた天使モドキの身体が、比喩ではなく本当に霧となった。
そのまま腕を振り切る。
天使モドキを消し去って尚余りあり、行き場を失った蒼いエネルギーが結界を貫通して、王都郊外にある山々を次々えぐり取った。




