第223話・さぁて、よくも生徒会長たる俺に地味な役割ばっかさせやがったな
「今の俺……どっからどう見ても脇役じゃん」
結界内をさっきから揺らし、光らせ、時には破壊しそうなほどの戦いを俺はボーッと屋上から眺めていた。
あの大混戦ぶりを見るに、結界を張ったのは大正解だろう。
けれど、こうまで他人任せというのもどうなのか……。
うーん、悩ましい。
もっと他の方法があったのではと思案する俺へ、後ろから声が掛けられた。
「結界……やっぱりお前がやってたんだな、生徒会長」
首だけ傾ければ、そこには手酷く痛めつけられた姿の少女。
異世界研究部の部長––––ニーナ・バレンシアがいた。
「あぁ、フェスティバルを守るために致し方なくな。全くお前らのせいでウチは副会長が前線に出られなくなった」
「……すまん、でも君の生徒会に助けられてなかったら、多分死んでたよ……」
「まぁ見りゃわかるよ、ずいぶん痛い目見たみたいだし、これ以上は言わないでおいてやる」
「……すまん」
見なくても首をシュンとしているのがわかる。
再び結界制御へ戻る俺に、彼女はいまだ申し訳なささを纏いつつ話しかけてきた。
「竜王級……、1つ聞いていいか」
「なんだ? あんま複雑なのはナシで頼むぜ。結界が乱れるからさ」
「いや……そう難解なものじゃない、ただ気になってたんだ。どうしてお前はそこまでの力を持ちながら……力を使わないで済む環境を望むんだ?」
これは……多分あれだ。
異世界研究部が己の力を過信し、一種の暴走行為をしてしまったが故の発言。
人間、手に入れた力は使いたがるのが本能だ。
けれど––––
「人間は本能と別に、“理性“を持ち合わせている。理性は本能を超えうる。俺は人間っていう種族が大好きだから……竜王級という称号に相応しい人間であるべきだと、いつも思ってるだけだ」
「力を使うのが嫌いなのか?」
「そうじゃない、確かに俺は二度と他人にエンチャントは掛けないさ。けれど力を持つ人間であるからこそ、その絶大な力をコントロールする規律と理性が必要って話だ」
背後のニーナが、フッと笑う。
「まるで軍人のような信条だな、とても学生とは思えんぞ」
「俺は軍人さんを日々リスペクトしてるからな、よく言うだろ? プロの軍人ほど平和主義者だって」
「違いない、もしそんなお前をキレさせたら……きっと魔王を見るより怖いんだろうな」
「ひょっとしたら神よりも」
「ぷっはは! 間違いない、あのエーベルハルト副会長の強さをわたしはもう嫌というほど知った。その副会長にお前は勝ち続けているのだろう? 本当に化け物だよ」
「俺の生徒会に属する全員、裏では俺に勝とうと毎日必死なんだぜ? 無論、そう簡単には負けてやらんが––––なッ!!」
上げていた両手を左右に広げた。
同時に、波打った結界が水面のように静かに落ち着く。
結界の安定化作業が、とうとう終わったのだ。
「さーて、よくも生徒会長の俺に地味な役割ばっかさせてくれたもんだ」
結界の形成で、少なくない魔力を失った。
俺はポケットから1本の瓶を取り出す。
「それは?」
「『マジタミンB』って言ったかな、夏休みの旅行で貰ったポーションだ」
俺は蓋を開け、それを一気に飲み干す。
甘ったるい味と酸味が喉を通った後、失われた魔力が帰ってきた。
真後ろのニーナへ、瓶を放り投げる。
「悪い、それ捨てといて貰えるか?」
「えっ、別に良いけど……どうするんだ?」
「俺はグダグダした戦いが嫌いだからな、この王都決戦を––––速攻で切り上げるだけだ」
両手に力を込めると同時、もう既に纏っていたペルセウスの持つ紅色の魔力へ、金色の魔力がかぶさった。
合わさっていく2つのオーラが激しく燃え盛り、周囲にハリケーンのような暴風を吹き荒れさせる。
「そういえばニーナ、お前はなんだかんだ俺の本気を今まで見れなかったろ」
「あっ、あぁ……ッ」
「これがそれだ」
魔力の衝撃波が放射状に広がった。
地面が揺れ、学園の窓ガラスは1枚残らず砕け散る。
俺の身体に、本来合わせてはならない2つのエンチャントが混ざった蒼色のオーラが現れる。
これこそ他を決して寄せ付けない、絶対的な破壊の具現。
竜王級が竜王級たる所以––––
「『身体・魔法能力極限化』ッ」
世界に鐘の音に似た音が響いた。
俺はすぐさま遠方の戦場を捉える。
「よし、行くかっ」
『飛翔魔法』と『高速化魔法』を同時使用。
屋上を飛び出した俺の体から、1秒で音速を超えたことを示すソニックブームが出た。
ぐちゃぐちゃになったパイは、全部まとめてひっくり返すに限る。
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