第221話・大人たちの本気
日々控えめな大人組が暴れ回る回です
大爆発が起きた、王都を揺るがす人工的な破壊現象だ。
暴風が吹き荒れ、建物の屋根ごと何もかもを剥がし飛ばす。
「ハッハッハッハッハァッ!!! マッド研究者のマリオネット風情が、雑多に集まったところで我々を殺せると思うなッ!!」
十字路の中央、ホムンクルスたちが竜巻で巻き上げられたように宙を舞っていた。
衝撃波の真ん中で銃剣を振っていたのは、元勇者ジーク・ラインメタル大佐。
とてもデスクワークが最近の中心とは思えない動きで、敵を薙ぎ払う。
「これが君たちの誇る第4世代ホムンクルスだと言うなら、心底ガッカリしたと言わざるを得んなぁっ!?」
見せる笑顔はとても元勇者と思えない、邪悪極まるもの。
衝撃波が収束。
魔力を凝縮した剣を手に、ホムンクルスたちが背後から一気に大佐の背を狙うも––––
「全くじゃ……これが王国最高の権威、その作品だと言うなら」
質量を持った物体に殴り飛ばされ、家屋に顔から突っ込んでそのまま事切れた。
大賢者ルナ・フィルティシアが、ハルバードの形をした宝具を大きく振ったのだ。
「余興にもならぬ、飽いたと言わざるをえんな」
そんな彼女が、指をパチンと鳴らした瞬間。
「ギッ!!?」
周囲の空間のあちこちから魔法陣が現れ、次々にレーザーを撃ち放つ。
焼き殺される者、貫かれ倒れるもの、何体ものホムンクルスがフォルティシアへ肉薄する前に駆逐された。
「今じゃ!! グラン!」
それが合図だったのだろう、車を踏みつけペシャンコにした大英雄グラン・ポーツマスが、剣を手に上空へ飛び上がった。
「『イグニール・ソニックブラスト』!!」
剣の先端が地上へ向けられ、灼熱の彗星は加速。
豪炎を纏った大英雄が、ホムンクルスの群れへ上空から突っ込んだ。
隕石衝突のような爆発が発生し、溢れ出た超高熱によって爆心地の敵は30体あまりが一気に蒸発した。
地面は大きく陥没し、石造りの建造物が崩れ落ちる。
爆風で飛びかけたお気に入りの帽子を、フォルティシアは慌てて押さえた。
「あやつ、後で竜王級が修繕するのに甘えて珍しく本気じゃな……こっちまで巻き込みかねんぞ」
「ハッハッハ! 元気で結構じゃないか、そうでなくては大英雄なぞ名乗るに及ばず。出す時に本気をだせる人間こそ真の戦士だ」
戦いはもはや一方的であり、蹂躙、虐殺と呼んでも良いレベルの展開だった。
ホムンクルスが弱いのではない、彼女たちはアサルトライフルで武装した小隊を相手できる強さに仕上がっている。
しかし元勇者、大英雄、大賢者という世界屈指の実力者たちを前にしては、ゴブリンなどの雑魚と大差ないのだ。
「ノイマン、これは予想できましたか?」
手元のタブレットに話しかけたドクトリオンは、独り言を呟いたのではない。
声はキッチリと姿のない話し相手に向けられていた。
《はい博士、12561回行ったシミュレーションの中にこの展開も存在します》
「ふむ、勝率はどうでしたか?」
《4700回全てにおいてこちら側が圧倒的に殲滅されています、これは完全に想定されたシナリオです。第4世代を投入するだけ無駄と断言できます》
「なるほど、ではノイマン……」
タブレットを操作する。
だが隙だらけのドクトリオンを見逃すほど、彼らは甘くない。
「誰と会話しとるか知らんが、よそ見厳禁じゃ!!」
魔力を高めたフォルティシアの瞳が金色に染まると同時、『インフィニティー・ハルバード』が勢いよく振られた。
「くらえっ!!『アルファ・ブラスター』!!」
一際極太のレーザーが発射され、ドクトリオンへ一直線に向かう。
眩い光が彼の顔を照らした時だった……。
「”第5世代“の使用を許可します」
レーザーが空中であらぬ方向へ曲がった。
意図したものではない、飛び込んできた何者かがアッサリ蹴り飛ばしたのだ。
「なっ!?」
荒んだ石畳に降り立ったのは、やはり亜人の見た目をした少女。
しかしその瞳はこれまでと違い、“金色”だった。
ラインメタル大佐が舌打ちする。
「勇者の複製……いや、贋作とでも言うべきかな。忌々しい限りだ」
「その通りですよ元勇者ジーク・ラインメタル!! 広義で言えばこれはあなたの同僚とも呼べる存在、もっと歓待してくださっても良いのですよ!?」
「肥溜めレベルの贋作を同僚と呼ばれたくはないね」
銃剣を構える大佐の傍へ、グランが下がってきた。
「気をつけてください大佐、明らかに雰囲気が違います」
「あぁグランくん、ちょっとばかり厳しい戦いになるのも覚悟しよ––––」
大佐の言葉を途中で途切れさせたのは、背後から響いた破砕音だった。
3人のすぐ後ろの建物が、大通りへ倒れ込むようにして崩れ落ちたのだ。
砂塵の中から、2つの影が左右へ飛び出す。
「おのれ魔壊竜が……ッ!! すぐにくたばれば楽になるものを!! 俺の顔に傷までつけやがって……!!!」
純白の翼を広げながら激昂していたのは、欺天使バリアン。
清楚な青年顔は、アザと激しい怒りに満ちている。
「へんっ! サッサと決めれないそっちが悪いんじゃん! こっちだって何発も殴ってんだからおんなじ気持ちだよ!!」
叫んだのは、髪も瞳も紫色へ染まった姿のアリサだった。
こちらも頭部から血を流してはいるが、血界魔装の状態。
致命傷は全く負っていないようだ。
竜王級の戦場は、さらなる混沌を迎えた。




